冷凍したベリーからサフトを作るお母さんもいれば、生のベリーからしか作らないというお母さんもいました。そんなお母さんのひとりがローズマリーさん。「ベリーは冷凍すると味が落ちてしまうから、新鮮なのが一番。新鮮なうちに食べきれないものは、サフトやジャムにするの」と話します。
ローズマリーさんが私たちにふるまってくれたのは、カシスのサフトから作る『バールソッパ』というスープ。水・カシスのサフト・砂糖・シナモンスティックを鍋で煮立たないように温めたものに、水で溶いたポテトスターチでとろみをつけた甘いスープです。
「昔はお菓子を食べられるのは週末だけという家が多くて。私が子どもだった頃は、日曜日になるとこれをいただいていたわ。お菓子より身体にいいから、私も自分の子どもに作っていたのよ」と、なつかしそうに話してくれました。以前に取材で訪れたハンガリーで出会ったフルーツスープのことを話すと「東欧の方がフルーツスープは色々とあるわよね。でもバールソッパが東欧から来たイメージはないわ。これはスウェーデンの限られた食材の中で生まれたスープなの」。スキーの大会などでもふるまわれるという、甘酸っぱくてスパイシーなバールソッパ。とろみがついているため、すぐには冷めず、ひと口飲むと身体が内側からじんわりと温まっていくのを感じました。
たとえ食材が豊富でなくても工夫をこらし、おいしくて身体に良いものを家族のために作りたい。そんなスウェーデンのお母さんの優しさが伝わってくるバールソッパは、私たちの心までポカポカと温かくしてくれました。
旦那さんのアンダッシュお父さんと二人で仲良く暮らしているエヴァお母さんの家を訪れました。日本が大好きだというアンダッシュさんは、羽織を着て私たちを迎えてくれた、とっても陽気なお父さん。息子さんが日本に住んでいるそうで、部屋には日本の置物が飾られていました。エヴァさんは、スウェーデンで昔から食べられているリンゴンベリーソースを添えたパンケーキを焼いてくれました。そしてパンケーキと一緒に出してくれたのが、アンダッシュさんお手製の豆のスープ。
昔、スウェーデンでは金曜日が断食の日となっていて、その前日である木曜日には栄養価の高いものが食べられていたのだそう。その木曜日によく食べられていたのが、この豆のスープとパンケーキで、断食がなくなった現在でも、黄金の組み合わせとして食べられていると教えてくれました。
病院で理学栄養士として働いていたときも家族への手料理は欠かさなかったという料理好きなエヴァさんですが、アンダッシュさんも実は料理好き。昔からキッチンによく立っていて、最近の趣味はパン作りなんだとか。
女性の就業率が高いスウェーデンですが、外食をするという習慣がほとんどないため、どんなに忙しくてもお母さんたちは手料理だけは欠かせません。そんな中、夫婦で家事を分担するのは決して珍しいことではなく、二人でキッチンに立つのも日常的な風景なのだそう。あまりに二人の仲が良いので「ケンカをしない秘訣は何?」と訊ねると「人生には上がり下がりがあって当然なのに、うまくいかないことを相手のせいにしがちよね。まずは、どんなときも相手を愛することを一番に考えること。これが大切よ」と教えてくれたエヴァさん。相手を愛することが、自分の幸せにもつながっていく…お母さんが家族に注ぐ愛情の意味を、あらためて学んだ瞬間でした。