そこには、お肉や香味野菜のうまみを組み合わせ、おいしくお腹を満たす知恵がありました。
「野菜を隅々までおいしく味わう工夫があるらしい」
そんな情報を聞きつけ、向かったのはイタリア中部に位置する、トスカーナ。貧しさの中で、工夫を凝らして食事を作っていた時代があり、その時の貴重な食料源が、農園で採れた野菜やオリーブ、高価だった塩を使わず作ったパン。中でも野菜に関しては、年じゅう市場でも出回る玉ねぎ、人参、セロリ、にんにくといった香味野菜が、トスカーナ料理の基礎となる食材として、今もなお脈々と受け継がれています。
まず訪れたのはフィレンツェから車で2時間ほどの農村、ロンダ村。ヤギの世話からオリーブの収穫まで!何でもこなす昔ながらの働き者、イオランダさんのおうちにお邪魔しました。
「両親が忙しかったから、料理を始めたのは10歳の頃。今も料理は好きよ」
バンダナを頭に巻いて張り切って作ってくれたのは、パンツァネッラと呼ばれるパンと野菜のサラダ、日本で食べるのとは全く違う、色々な野菜や豆が入ったとろとろのミネストローネ。硬くなったパンなど、素材を無駄なく再利用した料理が多いのも、トスカーナならではの特色です。「それでも余ったパンや野菜のくずは畑や花壇に使ったりしてるの」
農業を営み、野菜を食べ、余った野菜を食べて家畜はすくすくと育ち、鶏は卵を産み、ヤギはおいしいミルクを作る。畑の養分になり、またおいしい野菜が育つ。家庭の中で、食のサイクルが無駄なく循環される仕組みができていました。
「捨てないのは、もったいないからと、食材の栄養をまるごと摂れるから。その両方の意味があります」と付け加えてくれたのは、イオランダさんの義娘であるダニエーラさん。料理教室の講師も務める彼女は「野菜を茹でたあとのお湯にも栄養が溶け出しているから」と、使うことがあるとか。「自分のためにも、家族のためにも」とダニエーラさんが大切にしている「いのちを整える」意識を丁寧に教えてくれました。
冷蔵庫には、玉ねぎやパプリカのジャム、グリーンソース、ズッキーニの花とバジルのペーストなど、自家製のものがたくさん詰まっていました。さすがです!