ポレンタは時間が経って冷えると、固まってぷるぷるとした状態になります。もちろんこれを、トスカーナの人たちが無駄にするはずはありません。活用法を伝授してくれたのは、アンナさんファビオさん夫妻。ふたりが営む農家のおうちは、石造りの建物が大自然の風景に溶け込み、ため息が出るほど素敵でした。
お昼になったら、従業員みんなで食卓を囲みます。並んだのは自家製のワインやトマトのソース、みんなでシェアする大振りな料理、そしてポレンタ。アンナさん(右端の女性)曰く、ポレンタは「山間の村で食べられるもの」だそう。
写真の黄色いケーキのようなかたまりが、翌日のポレンタ!そのかたまりから、1cmくらいにスライスし(これ以上薄くすると崩れる)、油で揚げる、もしくはオーブンなどで焼きます。そのままでも食べますが、ソースや具をのせたアレンジも。この日は少し辛みの効いたトマトソース、ソーセージ肉とチーズでした。おやつとして、甘いジャムをのせていただくこともあるそうです。
さらに、ここでもポレンタを見かけました。ヴィーヴォ・ドルチャ村で暮らすレアルダさんのおうちです。もともとローマでお針子さんをしていたという、活動的なおばあちゃん。「家の裏でトマトを育てたり、動いていることが健康の秘訣なの」と言うだけあって、かわいいエプロン&スカーフ姿で、広いキッチンを行ったり来たり。
そんなレアルダさんが作ってくれたのは「ブロード」と呼ばれる、香味野菜や牛肉でだしをとった、シンプルでヘルシーなスープ。スープとはいえそこにパスタが入っているのが定番で、きちんと手打ちで作るのが彼女のお得意。子ども達が来る時は家族みんなが楽しみにしているからおみやげの分をふくめ、たくさん手打ちパスタを作っておくのだそう。
長い棒を使い、せっせとパスタを伸ばすレアルダさん。そして切る前に木箱から出して来たのが、ポレンタの粉。「これを振っておくと、水分を吸ってくれるのでくっつかないの」。小麦粉などと同じように、普通に家にある粉のひとつなのだろうと感じました。
「野菜のうまみ」をおいしく無駄なく引き出し、料理のベースとして使う。近隣の畑で作ったオリーブのオリーブオイルが一番おいしいとよく使う。スローフードのモットーに掲げられている「おいしい、きれい、正しい」をまさに体現したトスカーナ料理。心身にやさしく、地球にとってもやさしい食文化が培われていたのです。
毎日の食事の中に込められているのは、家族や地域を大切にする気持ち。「これからの未来に守り、つなげていきたい」と、みなさん話してくれました。
だからこそ、食べた時にお腹が満たされるのはもちろん、あたたかくやさしい気持ちになれる。私たちもそんなスープが作りたい、と元気になれる取材旅となりました。