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旅の取材記
デンマークには「りんごの島」がある?!

「日本では皮をむいてりんごを食べるのが普通なの?信じられない!りんごは皮ごと食べた方が栄養いっぱいなのよ!『1日1個のりんごは医者いらず』って言うくらいにね」と、デンマークにもりんごの有名なことわざがあることを教えてくれたのはグレーテお母さん。
彼女が住むのは、なんと島全体がオーガニックのりんご農園というリル島。コペンハーゲンからフェリーを乗り継いで、ようやくたどり着く人口6人という小さな島は、見渡すかぎり6種類のりんごと2種類の洋梨の並木が続いています。コペンハーゲンよりも気温が1〜2度ほど高く、果物作りに適した豊かな土壌を持つリル島。この島でとれたりんごを原料に作られるジュースやりんご酢などの商品は、コペンハーゲンの高級スーパーでも取り扱われるほど注目を集めていることを聞きました。
毎日必ず1回はりんごを口にするというグレーテお母さん。「夜になるとコーヒーの代わりにエーブルグロッドを作って、夫と一緒にゆったりとした時間を過ごしているの」という話から、りんごはグレーテさん夫妻の「ヒュッゲな時間」にも欠かせない存在であることが伝わってきます。

島を案内してくれた後、温かいりんごの飲みもの「エーブルグロッグ」をグレーテお母さんが作ってくれました。りんごジュースに数種類のスパイスを加えて煮詰めたシロップと、りんごジュースを小鍋に入れ、ドライフルーツのチップを浮かべてさっと煮込めば完成。エーブルグロッドやエーブルスープと違いスパイスがかなり効いていて、飲み終わる頃には身体がすっかりポカポカに。私たちが少しでも温まるようにというお母さんの気遣いが感じられ、気づけば心までしっかり温まっていました。

りんごと共に受け継がれていく、家族への想い。

ロラン島に住むピーダーさんのお家を訪れると、庭には樹齢100年の立派なりんごの樹が。庭のりんごで作った温かいりんごジュースをいただきながら、りんごの研究や植樹活動をしているピーダーさんのお話をうかがいました。

りんごを味わう楽しみをたくさんの家族に知ってもらうために植樹活動を行っていること、フランスで作られているシードルをデンマークのりんごで作り、ロラン島を活性させたいという夢。熱心な話しぶりから、りんごと故郷であるロラン島への深い愛情が伝わってきます。

同じロラン島に住むヴィベケお母さんのお家を訪れると、家庭菜園の収穫物を使った手作りの保存食が食料庫にたくさん並んでいました。子供の頃から家畜の世話や畑仕事、そして料理のお手伝いをしながら、自然と食べ物の旬や自給自足というライフスタイルを学んだヴィベケお母さん。料理は何の手伝いからはじめたのかと訊ねてみると「最初はりんごの芯ぬきや、皮むきからはじめたわね」と、『本当にりんごはデンマークでの生活に欠かせない存在!』と思わずにはいられない答えが。
「母親と台所に立って、料理を一緒にすることは、とても重要なこと」と言うヴィベケお母さん。料理や食事を通じ、家族のコミュニケーションをとる姿勢は、娘さんたちにもしっかりと受け継がれているそう。週末になると、料理上手なお母さんの味を楽しみに、娘さんの家族がやってくることをうれしそうに話す彼女の姿を見て、台所は家族にとって大切な空間であることを、あらためて感じました。

住んでいる土地との絆をりんごが深め、台所で作られるりんごを使った料理が家族の絆を深める。そして誰もが、自然と土地への愛情や誇りを抱きながら生きていくようになる…デンマークに住む人たちの豊かな心は、りんごと台所によって育まれているようにも、私たちには感じられました。そして、世界中の台所とそこに立つお母さんたちが持っている魅力を、もっと伝えていきたいという私たちの思いは、この旅を通してさらに強くなりました。

デンマークの知恵から
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