カーンヨハンヌお母さんのお家を訪れ、私たちが教わったのは「エーブルグロッド」という伝統料理。デンマーク語で「エーブル」はりんご、「グロッド」はおかゆの意味で、刻んだりんごをやわらかく煮た料理です。皮をむいて切ったりんごを鍋にいれ、少量の水と砂糖、バニラビーンズを加えて10分ほど煮たら、食感が残るくらいにりんごを砕き、冷たくしてできあがり。ミルクをかけていただくと、煮りんご独特のやわらかな味と、ミルクのまろやかさ、そしてふんわりと漂うバニラの香りが調和した、とってもやさしい味わい。
「ミルクのかわりにオートミールと合わせれば朝ごはんになるし、りんごがなめらかになるまで崩したのを温めればスープにもなるの。エーブルグロッドは万能レシピなのよ」と教えてくれたカーンヨハンヌお母さん。子供用には食べやすいようにとりんごを細かく砕き、大人用には歯ごたえが楽しめるようにりんごの形を残すのがカーンヨハンヌお母さん流。食べる相手のことを考えて、同じ煮りんごでもレシピを少しずつアレンジしているところに、お母さんならではの愛情を感じました。
ドーテお母さんは「エーブルスープ」という、温かいりんごのスープで私たちをもてなしてくれました。
皮をむいて切った数種類のりんごを、やわらかくなるまで煮て、少しの砂糖とバニラビーンズで味付けし、こし器でなめらかにしたこのスープ。サイコロ状に切って、から煎りしたパンをトッピングしていただきます。温かいスープをひとくちいただくと、りんごのほのかな酸味と上品な甘みが口の中いっぱいに広がりました。
「なぜりんごを煮るの?」と訊ねてみると「生では食べきれないりんごが傷まないように、保存の意味もあって煮ていたの。それと煮ると食感も変わって、りんごの酸味も少し和らぐから、生のりんごが苦手な人でも食べられるようになるのよ」と教えてくれました。昔からユトランド半島の人たちはチーズやパンで朝ご飯を手早くすませて農作業へ向かい、ひと仕事を終えた後、冷えた身体を温めるためにこの「エーブルスープ」を食べていたのだそう。「庭になっているりんごで手早く作れるし、食べると元気が出るのよ!」と笑顔で語る、ドーテお母さん。
お母さんによってはレモンの輪切りと煮込んでさっぱり味にしたり、白ワインを加えて大人風味にしあげたりと、各家庭それぞれの味がありました。もともとは食事を補うために作られ、前菜としていただくこともある「エーブルスープ」。毎日食べても飽きのこない味となるように、そして家族に喜んでもらえるように…そんなお母さんたちの愛情と工夫が、たっぷりとつまっていました。