フラワーウォーターにはいくつかの種類があるのですが、料理で主に使われるのはビターオレンジの花で作られたもの。毎年、春先に咲いた花を集め、一年分をまとめて作ると聞きました。その花を、クッターラと呼ばれる専用の蒸留鍋を使って蒸留し、フラワーウォーターを作ります。
数時間かけて温度調節をしながら蒸留し、夏まで遮蔽したビンの中で寝かせて、やっと完成するフラワーウォーター。
作り方を教えてもらったとき、花と水だけで作るお母さんもいれば、花や水の中にビターオレンジの実やハーブを入れるお母さんもいました。
また蒸留する時間の長さもそれぞれで、中には10時間以上かけて作るというお母さんも。どうやら家庭ごとに工夫がこらされたレシピがあり、それが代々と受け継がれているようです。
またフラワーウォーターが使われるのは、料理の調味料としてだけではありませんでした。
結婚式などの儀式、お客さんへの香りのおもてなし、肌や髪のケア、体調がすぐれないときの薬にと、その用途は実に様々。
女性はもちろん男性も含め、家族全員で使います。誰もが「フラワーウォーターは生活に欠かせないもの」と口にする様子から、モロッコの人々の“香り”への意識の高さをうかがうことができました。
婦人会の会長をつとめ、100人近くもの女性たちに料理や裁縫など、モロッコの女性が身につけるべき伝統技術を教えているズビタお母さん。
彼女も何時間もかけてフラワーウォーターを作る一人です。花がこげないように火加減に注意し、何度も水をかえながら、気長に完成を待つ…
この“気を長くする”ことが大切だと、ズビタお母さんは言います。「料理も裁縫も、気を長くするための練習。
気を長くして、せっかちにならないことが家庭を守る一番の秘訣なのよ」。
モロッコのお母さんたちが手作りを大切にし、料理に手間と時間を惜しまないのは、おいしい食事で家族を健康と笑顔にしたいという想いから。
その同じ想いが、フラワーウォーターにもこめられているように感じました。さりげなく毎日の暮らしに彩りを添え、心を穏やかにしてくれるフラワーウォーターのほのかな香り。「この香りは、きっと日本人の生活にも彩りを与えてくれる!」そんなわくわくする発見がありました。