地元の人にとって馴染み深い、さらなる夏の飲みものが「アグア・デ・セバダ」。アグアは水、セバダは大麦を意味し、直訳すれば「大麦の水」。1930年代に起きたスペイン内戦時にコーヒー豆が手に入らなくなり、代わりに生まれたのがこの「アグア・デ・セバダ」です。
さて、いったいどんな飲みものなんでしょうか?
一般的な名称はアグア・デ・セバダですが、家庭によってはカフェ・デ・マルタ(麦芽のコーヒー)だったり、カフェ・プチェロ(鍋のコーヒー)だったり。さまざまな呼び名があり、はじめは少し戸惑ってしまいました。
でも、よくよく考えてみると、日本でもお味噌汁のことを、味噌汁、おつゆ、おみおつけ、などと呼びます。それほどスペインの家庭に根付いている証拠だと思うと、戸惑いもなくなりました。
ちなみにプチェロというのは土鍋のこと。昔は土鍋で作ることが多かったので、こんな名前も生まれたそうです。
いろいろな呼び方があるのと同じく、レシピも家庭によって少しずつ違います。ただほとんどに共通していたところは、
①レモンのピールで下味をつける
②粉砕麦芽をお湯に入れ、火を止めてゆっくり抽出する
③しっかりめのお砂糖と、アクセントにハーブ類を入れる
飲み方はあったかくしても、冷たくしてもOK。お店ではシャーベット状で売られているところもありました。
また口当たりをよくするため、みんな布製の濾し器で丁寧にろ過しているのが、とても印象的でした。
アグア・デ・セバダ=大麦の水。そう聞いた時は、麦茶なの?コーヒーなの?と疑問を抱いていました。しかし飲むと、その疑問は一瞬で消し飛びました。
「これは、麦のクラフトコーヒーだ!」
色は深い黒色で、コーヒーに負けないボディとコク、そして鼻から抜ける豊かな香り。さらに驚いたのは、コーヒーにある口の中に残るベタつきがないこと。すっきりどころか、穏やかに終わる後味にうれしくなったのです。
ひとつ残った疑問は、ほとんどのところで加えていたレモンピールのこと。フレーバーティーのように、麦の香味にかぶさってくる……と思いきや、目立った主張はない。ん?どういうことだ?
その後、私たちはみんなでそれについて、とことん話し合いました。
コーヒーのおいしさは、香り、甘み、苦味など、いくつもの要素が重なりあってできています。麦芽も穀物を焙煎したものなので、近い要素はあるものの、油感(コク)、酸味には欠ける……。そこにレモンのピールが加わると、欠けていた要素がぴったり!レモンは味を「加える」ためというより、もともと持っていたコーヒーのおいしさの要素を「補う」ための役目だったのです。
おいしいケーキとアグア・デ・セバダを振る舞ってくれたカルメンさんは、
「昔はコーヒーを良く飲んでいたのだけれど、今はカフェインのせいで胃が重たくなる感じがあって、アグア・デ・セバダしか飲まないの。また病院でもコーヒーの代わりに飲んだり、子どもには砂糖入りのアグア・デ・セバダを渡すの。するとみんなといっしょにコーヒーを飲んでいる気分になれるでしょ」と、笑顔で教えてくれました。
もともとはコーヒーの代わりの飲みものとして生まれたものではあるけれど、コーヒーよりもすっきりとして、かつ体への負担が少ないというのは、私たちの今の暮らしにとっても、ありがたく、うれしいこと。
この土地だからこそ生まれた、みんなにやさしい「麦のクラフトコーヒー」、それがアグア・デ・セバダなのでした。