現世界チャンピオンのプライドと底力を、なでしこジャパン(日本女子代表)が見せつけた。アメリカと1対1で引き分けた4日後の4月5日、『キリンチャレンジカップ2012』の第3戦がホームスタジアム神戸を舞台に行なわれた。
この日の対戦相手は、ブラジル女子代表である。“サッカー王国”と呼ばれる男子に負けない実力を持つ強豪国だ。3日のアメリカ女子代表戦で0対3と敗れたものの、決して侮ることはできない。
日本の佐々木則夫監督は、第1戦とほぼ同じ先発メンバーを送り出した。そのなかで、この日は福元美穂(岡山湯郷Belle)がゴールマウスに立つ。また、アメリカ戦は途中出場だった宇津木瑠美(モンペリエHSC/フランス)がダブルボランチの一角を担い、安藤梢(FCR2001デュイスブルク/ドイツ)が川澄奈穂美(INAC神戸レオネッサ)と2トップを形成する。
19時50分にキックオフされたゲームは、両チームの意欲が序盤からぶつかり合う。日本はチャレンジ&カバーの原則を徹底し、相手攻撃の芽を摘み取っていく。とりわけ、国際舞台で数多くの得点をあげている相手FWに対しては、熊谷紗希(1.FFCフランクフルト/ドイツ)と矢野喬子(浦和レッズレディース)の両センターバックが厳しくアプローチし、ダブルボランチの宇津木と田中明日菜(INAC神戸レオネッサ)も素早くサポートする。前線に起点を作らせないことで、日本が徐々にペースを握っていった。
先制点は16分に生まれた。左サイドで得た直接FKを、宮間あや(岡山湯郷Belle)がゴール前へ。絶妙なクロスが相手DFのオウンゴールを誘い、日本がリードを奪った。
その後も日本はチャンスを作り出す。27分、宇津木のフィードから鮫島彩(モンペリエHSC/フランス)が左サイドを駆け上がり、ゴール前へグラウンダーのクロスを供給する。走り込んだ安藤が巧みにコースを変え、相手GKを慌てさせた。
31分にもスタジアムが沸く。宮間の縦パスを受けた川澄が、相手DFのマークを外してフィニッシュへ持ち込む。右足から放たれた一撃が、わずかにバーを越えていった。
佐々木監督が動いたのは38分だ。安藤に代えて永里優季(1.FFCトリビューネ・ポツダム/ドイツ)が起用される。『キリンチャレンジカップ2012』終了後すぐに所属先へ戻るため、できるだけ疲労を残さないための交代である。試合前から予定されていたものだ。それに加えて、「点を取らなきゃいけないので、残り10分で相手が少し疲れてきたところで、永里を入れてもう1点取れるんじゃないか」(佐々木監督)という狙いもあった。
しかし、前半がアディショナルタイムに突入した45+1分、ペナルティエリアすぐ外からの直接FKを決められてしまう。前半は1対1で折り返すこととなった。
しかし、ここからが逞しかった。
「ブラジルのプレスは強いが、あれぐらいのプレッシャーでボールを動かせなくてはダメだ。失敗を恐れずに続けよう。ここから3点取って優勝しよう」
佐々木監督の指示を受けた選手たちは、前半以上に縦への意識を高めていく。
選手交代も奏功した。田中に代わって菅澤優衣香(アルビレックス新潟レディース)が登場し、永里と1トップを組む。中盤の両サイドは右に大野忍(INAC神戸レオネッサ)、左に川澄となり、宮間がボランチへ下がった。
「前半はあまりワイドが使えていなかったので、ボールを散らせるように心がけました」と宮間は振り返る。キャプテンのパスワークをきっかけにアタッカー陣の個性が引き出され、攻撃の連動性が見違えるほど高まっていったのだ。
そして58分、宮間の右CKから永里が鮮やかなヘディングシュートを突き刺す。「蹴る前に(宮間が)合図をくれたので、狙いどおりでした」と、永里自身も納得の表情を浮かべる一発だった。海外クラブに所属する彼女が日本国内で得点をあげるのは、08年7月の『キリンチャレンジカップ2008』以来、およそ3年半ぶりである。
この試合二度目のリードを奪った日本は、ここからさらに攻撃のギアをあげていく。61分には華麗なパスワークから追加点をあげた。
左サイドへ流れた菅澤が、ゴール前へクロスを送る。戻りながらボールを収めた永里が、ターンして右足を振り抜く。相手GKが弾いたこぼれ球は、詰めていた宮間が難なくプッシュした。
わずか3分間でリードを2点に拡げたことで、試合の主導権は完全に日本のものとなった。佐々木監督は残り20分から交代選手を積極的に投入し、選手の経験値アップを求めながら4点目を目ざしていく。
なでしこたちの歓喜が弾けたのは、後半終了間際の89分だった。途中出場の上辻佑実(ベガルタ仙台レディース)が右サイドから持ち上がり、オーバーラップした右サイドバック近賀ゆかり(INAC神戸レオネッサ)へつなぐ。「近賀さんがいいボールをくれたので、あとは決めるだけでした」と話した菅澤は、DFを引き連れながらニアポスト際へ飛び込み、クラウンダーのクロスをスライディングで合わせた。スコアを4対1とした日本は、アメリカを振り切って単独優勝を決めたのである。
記者会見場に現われた佐々木監督は、「この『キリンチャレンジカップ2012』では、優勝カップを取ることを大きな目標に掲げていました」と切り出した。そのうえで、「宮城と大阪でのキャンプ、そしてアメリカ、ブラジルと対戦できて、選手一人ひとりが成長できたし、チームとしても成長できた。そして優勝できたことが、成果にあげられると思います」と続けた。
今後へ向けた抱負を訊かれた永里は、「ここまでチームとしていい準備ができているので、このまま自分たちのサッカーを積み重ねていきたい」と話した。キャプテン宮間も、「相手が100%の状態でなかったにしろ、勝ちきれたのは前向きにとらえていいと思います」と話している。
世界が認める実力を持つアメリカ、ブラジルとしのぎを削った今回の『キリンチャレンジカップ2012』によって、チームはさらに逞しくなった。なでしこジャパンへの期待が、日増しに高まっている。
■4月5日 ホームズスタジアム神戸
日本女子代表 [4-1] ブラジル女子代表
1) FW 安藤 梢 2) DF 鮫島 彩 3) DF 熊谷 紗希 4) DF 矢野 喬子 5) DF 宇津木 瑠美 6) GK 福元 美穂 7) DF 田中 明日菜 8) DF 近賀 ゆかり 9) FW 大野 忍 10) MF 宮間 あや 11) MF 川澄 奈穂美 |
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1) FW 安藤 梢
2) DF 鮫島 彩
3) DF 熊谷 紗希
4) DF 矢野 喬子
5) DF 宇津木 瑠美
6) GK 福元 美穂
7) DF 田中 明日菜
8) DF 近賀 ゆかり
9) FW 大野 忍
10) MF 宮間 あや
11) MF 川澄 奈穂美
<代表監督> 佐々木 則夫
<出場選手>
■4月5日/ホームズスタジアム神戸
日本女子代表 (1) 3 | <オウンゴール 永里優季 宮間あや 菅澤優衣香> | |
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ブラジル女子代表 (1) 0 | <フランシエリ・マノエウ・アウベルト> | |
日本 | ||
GK | 福元 | |
DF | 近賀 熊谷(長船) 鮫島 宇津木(高瀬) 田中(菅澤) 矢野 | |
MF | 宮間 川澄 | |
FW | 安藤(永里) 大野(上辻(中野)) | |
ブラジル | ||
GK | アンドレイア・スンタケ | |
DF | ダイアニ・メネゼス エリカ・クリスチアーノ・ドス・サントス マウリニ・ドルネレス・ゴンサウベス(マリア・アパレシダ・S・アウベス) アリニ・ペレグリノ ダニエリ・ペレイラ(ロザナ・アウグスト) | |
MF | エステル・ドス・サントス フランシエリ・マノエウ・アウベルト(ベアトリス・ジョアン) | |
FW | タイース・ドゥアルチ・ゲーデス クリスチアーニ・ロゼイラ グラジエリ・ピニェイロ・ナシメント(ガブリエラ・マリア・ザノッチ・デモネル) |
*月日/場所
国名(前半得点)総得点<得点者>
*メンバー(交代メンバー)
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