世界最高峰の戦いが、肌寒さが舞い降りる仙台の夜を熱くした。4月1日、『キリンチャレンジカップ2012』がユアテックスタジアム仙台で開催され、なでしこジャパン(日本女子代表)とアメリカ女子代表が激突したのだ。
両チームにとって、重要な意味を持つ一戦である。今回の『キリンチャレンジカップ2012』は来るべき国際大会への試金石であり、実力を認め合うライバルを通じて自分たちの現在地をはかる目的もあっただろう。
日本のシステムは4-4-2を基本とするが、2トップの一角を担う川澄奈穂美(INAC神戸レオネッサ)は流動的にポジションを変えていく。このため、永里優季(1.FFCトリビューネ・ポツダム/ドイツ)を頂点とした4-2-3-1にもなる。
また、右サイドバックの近賀ゆかり(INAC神戸レオネッサ)と左サイドバックの鮫島彩(モンペリエHSC/フランス)は、ビルドアップからサイドでの仕掛けまで幅広く関わる。サイドバックが攻め上がったあとのバランスは、熊谷紗希(1.FFCフランクフルト/ドイツ)と矢野喬子(浦和レッズレディース)の両センターバックに阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)と田中明日菜(INAC神戸レオネッサ)のダブルボランチを加えた4枚のブロックで整える。阪口と矢野は前線にも飛び出し、宮間あや(岡山湯郷belle)、大野忍(INAC神戸レオネッサ)とともに2トップをフォローする。攻守にわたって全員が足を止めず、積極的にボールに絡んでいくサッカーが展開されていくのだ。
最初に決定機をつかんだのはアメリカだった。14分、右ショートコーナーから決定的ヘッドを放つが、GK海堀あゆみ(INAC神戸レオネッサ)がガッチリと胸に収める。この時間帯はややアメリカに押し込まれるものの、日本はコンパクトな陣形を築いてチャンスを与えない。
逆に20分過ぎからは、日本の良さが発揮されていく。テンポの良いパスワークで相手のプレスを回避し、徐々にゴールへ迫った。24分には近賀のパスを受けて川澄がドリブルで持ち込み、永里へあずける。宮間が連動してサポートし、永里からのダイレクトパスをゴール前へ通す。走り込んだ川澄には惜しくもつながらなかったが、連動性の高い攻撃が相手守備陣を慌てさせた。
27分には、リスタートから相手ゴールを脅かす。宮間の直接FKを永里が合わせ、こぼれ球に阪口が反応する。シュートは惜しくもゴール左へ逸れたが、活気ある攻撃がスタジアムを沸かせ、それがまた選手たちを後押しする。ホームの雰囲気が高まってきたところで、待望の先取点が生まれた。
32分だった。右センターバック熊谷のフィードを受けた近賀が、中盤右サイドへおりてきた川澄へ横パスをつなぐ。川澄はボールをキープしながら近賀の攻め上がりを待ち、相手DFの裏へ抜ける瞬間に絶妙なループパスを通す。ペナルティエリアに侵入した近賀のクロスは相手DFに跳ね返されるが、こぼれ球を自らプッシュした。
40分には1本のタテパスから最終ラインの背後を突かれるが、GK海堀が的確なポジショニングで相手FWに圧力をかけ、ゴールを許さない。「前半はやろうとしていることができた」という熊谷のコメントどおりに、日本は1点リードでハーフタイムを迎えた。
後半は一進一退の攻防で進んでいく。先にアクションをおこしたのは日本ベンチだ。61分、佐々木則夫監督は永里に代えて安藤梢(FCR2001デュイスブルク/ドイツ)を投入する。1999年11月に国際Aマッチデビューを飾った安藤は、今日の『キリンチャレンジカップ2012』で出場100試合となった。
直後の62分、日本が追加点のチャンスをつかむ。右サイドでパスカットした田中が宮間へつなぐと、ペナルティエリア右へスルーパスが供給される。川澄がフリーで抜け出す。右足でシュートを放つ。しかし、ボールは左ポストをかすめるように逸れていった。
67分、佐々木監督が再び動く。鮫島がベンチへ下がり、有吉佐織(日テレ・ベレーザ)が起用される。
69分、川澄がまたも相手ゴールへ迫る。大野のスルーパスから相手最終ラインを破り、ゴール右から右足を振り抜く。しかし、相手GKの好セーブに阻まれた。
めまぐるしく動くゲームは、72分にこの試合2度目のゴールシーンを迎える。バックパスをさらわれ、痛恨の同点弾を喫してしまうのだ。
「結果が欲しかったので、最後の最後まで仕掛けた」という佐々木監督は、85分に交代選手を送り出す。田中から宇津木瑠美(モンペリエHSC/フランス)、大野から菅澤優衣香(アルビレックス新潟レディース)というスイッチだ。2トップは安藤と菅澤になり、川澄が2列目の左サイドへ下がる。
終盤はリスタートから相手ゴールを脅かした。FKとCKを立て続けに獲得し、宮間が高精度のクロスを供給する。飽くなきゴールへの執念を見せながらも、1対1のまま終了のホイッスルを聞くこととなった。
「アメリカ相手にも、対戦するたびに自分たちの良さを出していると感じます」
試合後の記者会見で、佐々木監督はこう切り出した。続けて「今日はボールをしっかり動かせた。簡単に下げず、背を向けず、前へという意識があった」とチームの進化を口にした。「対アメリカとして見れば、攻撃の形はいままでよりもステップアップしている。シュートまで持っていけるシーンが多くなっていると思います」とも付け加えている。国際的に評価の高い相手FWを封じた守備面の頑張りも、称賛されるべきだ。
もちろん、課題を抽出するのも忘れていない。キャプテン宮間は「主導権を握る時間が以前に比べて長くなっているのは確かですが、ボールを持たせている時間もある」と表情を引き締める。この日のメンバーでは宮間に続いて国際Aマッチ出場数が多い大野も、「アメリカに分析されていたと思うし、相手にやらされていた感じがします」とのコメントを残した。
ただ、かつては接戦に持ち込むことさえ難しかったアメリカと、互角以上に渡り合ったのは改めて評価されていい。さらなる高みを目ざすからこそ、彼女たちは自らと厳しく向き合い、細かな修正点も見逃さない。それこそが、世界の頂点を目ざすなでしこたちの流儀なのだ。
■4月1日 ユアテックスタジアム仙台
日本女子代表 [1-1] アメリカ女子代表
![]() |
![]() |
1) DF 熊谷 紗希 2) DF 田中 明日菜 3) DF 矢野 喬子 4) MF 阪口 夢穂 5) GK 海堀 あゆみ 6) FW 永里 優季 7) DF 近賀 ゆかり 8) FW 大野 忍 9) MF 宮間 あや 10) MF 川澄 奈穂美 11) DF 鮫島 彩 |
-
1) DF 熊谷 紗希
2) DF 田中 明日菜
3) DF 矢野 喬子
4) MF 阪口 夢穂
5) GK 海堀 あゆみ
6) FW 永里 優季
7) DF 近賀 ゆかり
8) FW 大野 忍
9) MF 宮間 あや
10) MF 川澄 奈穂美
11) DF 鮫島 彩
写真提供/©Jリーグフォト
<代表監督> 佐々木 則夫
<出場選手>
■4月1日/ユアテックスタジアム仙台
日本女子代表 (1) 0 | <近賀 ゆかり> | |
---|---|---|
アメリカ女子代表 (0) 1 | <アレックス・モーガン> | |
日本 | ||
GK | 海堀 | |
DF | 近賀 熊谷 鮫島(有吉) 田中(宇津木) 矢野 | |
MF | 阪口 宮間 川澄 | |
FW | 大野(菅澤) 永里(安藤) | |
アメリカ | ||
GK | ホープ・ソロ | |
DF | クリスティ・ランポーン エイミー・ルペルベット レイチェル・ビューラー | |
MF | ケリー・オハラ シャノン・ボックス(トビン・ヒース) ヘザー・オライリー(エイミー・ロドリゲス) カーリ・ロイド | |
FW | ローレン・チェニー アレックス・モーガン(シドニー・ルルー) アビー・ワンバック |
*月日/場所
国名(前半得点)総得点<得点者>
*メンバー(交代メンバー)
過去の試合レポートを見る | 過去の試合レポート |
---|