SAMURAI BLUE(日本代表)の2012年は、大阪長居スタジアムで幕を開けた。2月24日、今年最初の国際Aマッチとなる『キリンチャレンジカップ2012』が行なわれ、日本代表がアイスランド代表と対戦したのである。
欧州各国リーグが週末に行なわれることもあり、アルベルト・ザッケローニ監督はJクラブ所属の選手でメンバーを編成した。23人のメンバーには、代表復帰となる大久保嘉人(ヴィッセル神戸)や石川直宏(FC東京)らの経験豊富なベテランに加え、磯村亮太(名古屋グランパス)、柴崎岳(鹿島アントラーズ)、久保裕也(京都サンガF.C.)らの若手が初めて代表に選出された。
5日後に2014FIFAワールドカップブラジル アジア3次予選のウズベキスタン戦を控えている日本にとって、アイスランドを迎えた『キリンチャレンジカップ2012』は単なるテストマッチにとどまらない意味を持つ。「ゲームに必要な体力を取り戻す」「試合感覚を養う」「コンビネーションの確認をする」──チェック項目はいくらでもあげることができた。
日本のキックオフで幕を開けた一戦は、電撃的なゴールで動き出す。キックオフ直後の2分、大久保とのパス交換で左サイドを駆け上がった槙野智章(浦和レッズ)が、ペナルティエリア内で相手選手を交わして、ふわりとしたクロスをゴール前へ。走り込んでいた前田遼一(ジュビロ磐田)が頭で押し込み、日本がいきなり先制点を奪ったのだ。「槙野が本当にいいボールをあげてくれた」と、前田はアシストを讃えた。
日本のフォーメーションは、チームのベースである4-2-3-1だ。GKには西川周作(サンフレッチェ広島)が起用され、最終ラインは左から槙野、今野泰幸(ガンバ大阪)、栗原勇蔵(横浜F・マリノス)、駒野友一(ジュビロ磐田)の4人で構成される。
中盤では遠藤保仁(ガンバ大阪)と増田誓志(鹿島アントラーズ)がダブルボランチを組む。遠藤はゲームキャプテンを任され、増田は国際Aマッチ初出場だ。
中盤の2列目には、右から藤本淳吾(名古屋グランパス)、トップ下に柏木陽介(浦和レッズ)、左に大久保が配置され、彼ら3人が1トップの前田を手厚くサポートする。ザッケローニ監督指揮下で初招集の大久保は、2010年のFIFAワールドカップ南アフリカのパラグアイ戦以来の国際試合である。
開始早々の先制点で勢いをつかんだ日本は、その後も高いボール支配率をベースに主導権を掌握する。35分には駒野のクロスから藤本が決定的なシュートを浴びせるなど、守備的なアイスランドをじわじわと追い詰めていった。
追加点が生まれたのは、後半開始直後の53分だった。後半開始とともに柏木と代わって出場した中村憲剛(川崎フロンターレ)が、絶妙なスルーパスをペナルティエリア右へ供給する。走り込んだ藤本は、相手GKの動きを冷静に見極めてゴールへ流し込んだのだった。2007年3月のキリンチャレンジカップで代表デビューを飾ったレフティーが、ウズベキスタン戦への強烈なアピールとなる代表初ゴールをマークしたのだった。
この時点で、勝敗の行方はほぼ決していたと言っていいだろう。アイスランドは持ち前の高さと強さで対抗してくるが、日本のパスワークは相手の守備網を翻弄する。2対0とした直後の54分には、中村憲と同じく後半からピッチに立った田中順也(柏レイソル)が決定的なチャンスを迎える。藤本のラストパスを受けてペナルティエリア内でフリーとなり、決定的なシュートを放ったのだ。しかし、惜しくもゴール左へ逸れてしまう。「抜け出した形はチームが狙っているものなので、それが出せたのは良かったんですが……。シュートを外してしまったので悔しいです」とは、試合後の田中である。国際Aマッチデビューを果たしたものの、初ゴールは次戦以降に持ち越しとなってしまった。
それでも、79分この日三度目の歓喜が訪れる。主役を演じたのは槙野だ。右サイドから中村憲が供給した直接FKを、DFと競り合いながらシュートへ結びつける。一度はブロックされたものの身体を投げ出しながら右足を振り抜くと、ボールはゴール左スミへ転がり込んでいった。
アディショナルタイムに突入した90+3分、PKから1点を返されたものの、日本は3-1で終了のホイッスルを聞いた。交代出場枠いっぱいの6人の控え選手を送り込み、そのうえ勝利をつかんだのである。ウズベキスタン戦への助走として、内容を伴った結果を弾き出したと言っていい。
「個人的にはやってはいけないミスがあったので」と話したのは、82分までプレーした今野だった。64分に藤本と交代出場した石川も、「もう少しサイドで連動して攻めたかった。正直、アピールはできていません」と自重気味に話した。選手たちの自己評価は厳しいものが多かったが、だからこそ成果は大きい。この段階でチームと個人の現在地を確認しておくことは、ウズベキスタン戦はもちろんその後のチーム作りにもプラスとなるからだ。
ザッケローニ監督は言う。
「ディフェンスラインの後ろのほうでパスをまわし過ぎたところはあったが、しっかり守ることはできていた。サイドでのコンビネーションは良かったし、ゴールにつながったシーンでもコンビネーションの良さが発揮されていた」
続けて監督は、「唯一の問題は、やはりフィジカルコンディションだった」と付け加えたが、Jリーグ開幕前のテストマッチである。すべては想定の範囲内だっただろう。
この試合でザッケローニ監督が得た情報は、ウズベキスタン戦だけでなくその後の国際試合にも生かされる。この試合で個々の選手がつかんだ手応えは、ブラジルを目ざすチームに落とし込まれていく。ピッチに立った選手だけでなく、ベンチで見守った選手も刺激を受けたはずだ。
直後に控えるウズベキスタン戦への準備にとどまらず、2012年のスタートとして、『キリンチャレンジカップ2012』が果たした役割は大きい。勝敗を越えた意義を見出せるところに、『キリンチャレンジカップ』の重みがあるのだ。
■2月24日 大阪長居スタジアム
日本代表 [3-1] アイスランド代表
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1) GK 西川 周作 2) DF 槙野 智章 3) DF 栗原 勇蔵 4) FW 前田 遼一 5) DF 今野 泰幸 6) FW 大久保 嘉人 7) FW 藤本 淳吾 8) DF 駒野 友一 9) MF 柏木 陽介 10) MF 遠藤 保仁 11) MF 増田 誓志 |
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1) GK 西川 周作
2) DF 槙野 智章
3) DF 栗原 勇蔵
4) FW 前田 遼一
5) DF 今野 泰幸
6) FW 大久保 嘉人
7) FW 藤本 淳吾
8) DF 駒野 友一
9) MF 柏木 陽介
10) MF 遠藤 保仁
11) MF 増田 誓志
写真提供/©Jリーグフォト
<代表監督> アルベルト ザッケローニ
<出場選手>
■2月24日/大阪長居スタジアム
日本代表 (1) 3 | <前田遼一 藤本淳吾 槙野智章> | |
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アイスランド代表 (0) 1 | <アルノール・スマウラソン> | |
日本 | ||
GK | 西川 | |
DF | 駒野(伊野波) 栗原(近藤) 槙野 今野(森脇) | |
MF | 遠藤 柏木(中村) 増田 | |
FW | 藤本(石川) 大久保(田中) 前田 | |
アイスランド | ||
GK | ハンネス・ソール・ハルドーソン(グンレイフル・グンレイフソン) | |
DF | アルノール・スベイン・アーザルスティンソン ハトルグリムール・ヨナソン ヒャルマル・ヨンソン グズムンドゥル・クリスチャンソン(スクーリ・ヨーン・フリーズゲイルソン) | |
MF | ヘルギ・バルー・ダニエルソン ハウクル・パル・シグルズソン(アリ・フレイル・スクーラソン) ソーラリン・インギ・バルディマルソン(ハトルドール・ビョルンソン) | |
FW | グンナル・ヘイザル・ソルバルドソン(ガルザル・ヨハンソン) マティアス・ビルヒャルムソン(ステインソール・フレイル・ソルステインソン) アルノール・スマウラソン |
*月日/場所
国名(前半得点)総得点<得点者>
*メンバー(交代メンバー)
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