タジキスタンとの2014FIFA ワールドカップブラジル アジア3次予選を4日後に控えた10月7日、SAMURAI BLUE(日本代表)が『キリンチャレンジカップ2011』に臨んだ。
対戦相手に迎えたのは、このところ成長著しいベトナム代表である。ホームズスタジアム神戸で日本代表が試合を行うのは、2008年11月13日にシリアと対戦した『キリンチャレンジカップ2008』以来だ。ほぼ3年ぶりとなる国際Aマッチに、スタンドはキックオフ前から熱気に包まれた。
「タジキスタン戦へ向けて非常に重要な一戦だ」と語るアルベルト・ザッケローニ監督は、二つの目的を持って試合に臨んだ。いつもの4−2−3−1ではなく3−4−3のシステムを採用するとともに、「これまで出場機会の少なかった選手」を数多く先発で起用したのである。
6月7日に開催された『キリンカップサッカー2011』のチェコ戦以来となる3−4−3が、どこまで機能するのか。スタメンに抜擢された選手たちが、どんなプレーを見せてくれるのか。指揮官の狙いは、そのままこの試合の興味となった。
キックオフとともに、試合の主導権を握ったのは日本だ。3−4−3の強みである中盤での優位性を生かし、序盤から高いボールポゼッションを弾き出していく。
右サイドから駒野友一(ジュビロ磐田)と藤本淳吾(名古屋グランパス)が、左サイドからは長友佑都(インテル・ミラノ/イタリア)と香川真司(ボルシア・ドルトムント/ドイツ)が積極的に仕掛け、ダブルボランチの長谷部誠(VfLヴォルフスブルク/ドイツ)と細貝萌(FCアウグスブルク/ドイツ)が攻守をつなぎながら前線に絡む。3トップの中央を任された李忠成(サンフレッチェ広島)は、持ち味である背後への飛び出しで相手守備陣に圧力をかけつつ、攻撃の起点となる。
右から伊野波雅彦(ハイデュク・スプリト/クロアチア)、今野泰幸(FC東京)、槙野智章(1.FCケルン/ドイツ)で構成される最終ラインも、守備のリスクマネジネントをしながらビルドアップに関わる。ゴールマウスに立つ西川周作(サンフレッチェ広島)の存在感も、チームに安心感を与えている。ザッケローニ監督が大切にする「勇気とバランス」は、システムが変わっても、選手が入れ替わっても、しっかりと息づいている。
最初に決定的なシーンをつかんだのは20分だ。右サイドの藤本がペナルティエリア左へ正確なパスを通すと、走り込んでいた香川へつながる。惜しくもゴールには至らなかったものの、相手守備陣を慌てさせたこのシーンから攻撃が勢いを増していく。
そして24分、日本代表の躍動がスタジアムに歓喜をもたらす。長谷部のスルーパスに、藤本の動き出しがシンクロする。右サイドを抜け出した藤本がゴール前へラストパスを送ると、李が右足ダイレクトでプッシュした。1月のAFC アジアカップ2011 カタールの決勝戦以来となる李の得点で、日本代表がスコアを動かした。
ボールポゼッションで上回る日本は、その後も相手ゴールに迫る。36分、左ショートコーナーから長友が右ポスト際へクロスを送ると、槙野が際どいヘディングシュートを浴びせる。40分には細貝の縦パスを起点にパスがつながり、藤本がフィニッシュへ持ち込む。日本代表のワンサイドゲームと言ってもいい内容で、前半は終了した。
後半開始とともに、ザッケローニ監督は4人の選手を交代した。これにより、システムも3−4−3から4−2−3−1へ変更された。最終ラインは右から駒野、栗原勇蔵(横浜F・マリノス)、今野、槙野で構成され、阿部勇樹(レスター・シティ/イングランド)と細貝がダブルボランチを組む。攻撃的な中盤は藤本が引き続き右サイドを基本とし、左サイドには原口元気(浦和レッズ)が入る。トップ下は中村憲剛(川崎フロンターレ)だ。1トップは李である。長谷部が巻いていたキャプテンマークは、今野が引き継いだ。
後半から登場した4選手のなかで、最初にスタジアムを沸かせたのは原口だった。53分、4−2−3−1の「3の左」から、切れ味鋭いドリブルシュートを見せたのである。U—22日本代表でも活躍するチーム最年少の20歳は、堂々たる国際Aマッチデビューを飾ったのだった。
68分には槙野の負傷により、吉田麻也(VVVフェンロ/オランダ)が急きょ投入される。吉田が右センターバックに入り、今野が左センターバックから左サイドバックへスライドする。それでも、チームに混乱はない。
メンバーとシステムがめまぐるしく変わるなかで、日本は最後までゴールを目ざした。74分、藤本の右CKから李が決定的なヘディングシュートを放つ。90分、藤本の直接FKがわずかにゴールを逸れる。試合終了間際には、阿部と李が立て続けにシュートを浴びせたが、惜しくも追加点はならなかった。
試合後のザッケローニ監督は「二つの目的は達成された」と語り、「最後の精度に課題は残ったが、相手に的を絞らせないことはできていた」と続けた。質問が集中した3−4−3のシステムについては、「完成を焦ってはいない。徐々に制度を高めていきたい」と、落ち着いた調子で振り返った。
1−0というスコアだけを見れば、日本が苦戦したとの印象を与えるかもしれない。しかし、4日後のW杯3次予選を見据えつつ、長期的な視野に立ったオプション作りに取り組んでいたことを踏まえれば、意義深いゲームだったと言うことができるはずだ。
「(3−4−3は)一発でできるほど簡単なものではない。そこはもがいて、もがいて、やっていけばいいと思う」
長谷部キャプテンの言葉が、頼もしく響いた。
■10月7日 ホームズスタジアム神戸
日本代表 [1-0] ベトナム代表
1) MF 細貝 萌 2) DF 伊野波 雅彦 3) GK 西川 周作 4) DF 槙野 智章 5) FW 李 忠成 6) DF 今野 泰幸 7) FW 藤本 淳吾 8) DF 駒野 友一 9) DF 長友 佑都 10) FW 香川 真司 11) MF 長谷部 誠 |
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1) MF 細貝 萌
2) DF 伊野波 雅彦
3) GK 西川 周作
4) DF 槙野 智章
5) FW 李 忠成
6) DF 今野 泰幸
7) FW 藤本 淳吾
8) DF 駒野 友一
9) DF 長友 佑都
10) FW 香川 真司
11) MF 長谷部 誠
<代表監督> アルベルト ザッケローニ
<出場選手>
■10月7日/ホームズスタジアム神戸
日本代表 (1) 1 | <李忠成> | |
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韓国代表 (0) 0 | ||
日本 | ||
GK | 西川 | |
DF | 伊野波(阿部) 駒野 長友(栗原) 今野 槙野(吉田) | |
MF | 細貝 長谷部(中村) | |
FW | 香川(原口) 藤本 李 | |
ベトナム | ||
GK | ブイ・タン・チュオン | |
DF | レ・フオック・トゥ チャン・チ・コン フイン・クアン・タイン ドアン・ビエト・クオン | |
MF | グエン・ミン・チャウ(グエン・バン・クエット) グエン・コン・フイ レ・タン・タイ(グエン・ゴック・タイン) グエン・チョン・ホアン(グエン・アイン・トゥアン) ファム・タイン・ルオン(ホアン・ディン・トゥン) | |
FW | レ・コン・ビン(グエン・クアン・ハイ) |
*月日/場所
国名(前半得点)総得点<得点者>
*メンバー(交代メンバー)
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