アルベルト・ザッケローニ新監督率いる日本代表が、ついに動き出した。今年最後の『キリンチャレンジカップ2010』が10月8日に行なわれ、埼玉スタジアム2002でアルゼンチンと対戦したのだ。
ザックことザッケローニ監督は、「まだすべての日本人選手を把握していない」という理由から、2010FIFAワールドカップ南アフリカ(以下南アフリカ大会)のメンバーをベースにチームを構成した。ヨーロッパからは本田圭佑(CSKAモスクワ/ロシア)、香川真司(ドルトムント/ドイツ)、川島永嗣(リールセ/ベルギー)ら8選手が招集され、関口訓充(ベガルタ仙台)、本田拓也(清水エスパルス)の2選手が初招集を受けた。
日本のキックオフで動き出したゲームは、序盤からアップテンポな攻防が繰り広げられる。7分、センターサークル付近での攻守の入れ替わりから、リオネル・メッシが高速のドリブルで日本陣内に襲いかかる。8分、敵陣でのパスカットから本田が右足でシュートを浴びせる。直後の9分、本田と内田篤人(シャルケ/ドイツ)のコンビで右サイドを切り崩し、ライナー性のクロスが中央へ。ゴール正面の岡崎慎司(清水エスパルス)が右足で合わせたが、惜しくも相手GKの正面を突いてしまう。親善試合とは思えないほど熱の入った両チームのプレーに、5万7千人を越える観衆から何度もどよめきがあがる。
アルゼンチンとは1992年の『キリンカップサッカー92』で初めて対戦し、過去6試合はいずれも黒星を喫している。02年11月の『キリンチャレンジカップ2002』は0−2で敗れ、翌年6月の『キリンカップサッカー2003』では1−4と力の差を見せつけられた。04年8月にも『キリンチャレンジカップ2004』で顔を合わせ、1−2の苦杯をなめている。
しかし、「相手を尊重するが、怖がってはいけない」とザッケローニ監督が話していたとおり、日本は積極果敢に攻撃を仕掛けていく。選手たちの意欲的な姿勢は、18分にゴールへと結びついた。
敵陣でパスカットをした岡崎が、そのまま右サイドを突き進む。岡崎のクロスを受けた本田は、素早いチェックに遭ってシュートへ持ち込めない。だが、こぼれ球にいち早く寄せたのは長谷部誠(ヴォルフスブルク/ドイツ)だった。南アフリカ大会に続いてゲームキャプテンを任された背番号17は、わずかな迷いもなく右足を振り抜く。鋭い弾道のシュートがゴールへ向かい、相手GKが前へこぼす。
ここに、岡崎が走り込んでいた。「いつも狙っている形」が訪れたのだ。見逃すはずはない。相手GKより一瞬早くコンタクトしたボールは、ゴールネットに突き刺さった。
リードを奪われたアルゼンチンは、プライドと意地を剥き出しにしてくる。しかし、前線から連動した日本のディフェンスは、ペナルティエリア付近への侵入を許さない。ボール支配率ではアルゼンチンが上回るものの、日本の守備ブロックは崩れないのである。森本貴幸(カターニャ/イタリア)、本田、香川、岡崎らの圧力を嫌ったアルゼンチンが、GKまでボールを下げることもしばしばだった。
「1−0では分からない。リードを守るのではなく、2点目を取りにいこう」
ハーフタイムにザッケローニ監督の激励を受けた選手たちは、後半もアグレッシブさを発揮していく。52分、素早いリスタートから岡崎が右サイドを突破し、グラウンダーのクロスを中央へ送る。フリーでパスを受けた香川が、シュートブロックをかいくぐって右足でシュートへ持ち込む。この一撃により、後半立ち上がりの主導権は日本が握った。
54分、左CKを遠藤が香川へつなぐ。ショートコーナーだ。鋭い切り替えしでマークを外した香川のクロスが、ファーサイドで待ち構える今野泰幸(FC東京)へわたる。ワントラップ後のシュートは相手DFに当たって枠を逸れるが、右サイドへ弾き出されたこぼれ球を本田が支配し、今野がフォローする。アルゼンチンの慌て気味のアプローチがファウルにつながる。直接FKだ。
スタジアムがヒートアップする。ボールをセットするのはもちろん本田で、ペナルティエリア右外奥のポイントは、南アフリカ大会のデンマーク戦を想起させるからだ。ピッチに歓声が降り注がれる。期待が渦巻く。
本田の左足から放たれた直接FKは、無回転のままゴールへ一直線に向かい、急速に角度を落とした。相手GKは反応するのが精いっぱいで、キャッチすることができない。追加点とはいかなかったものの、威圧感十分の一撃だった。
65分、1トップの森本に代わって前田遼一が投入される。ジュビロ磐田で好調なストライカーは、トーゴに大勝した09年10月の『キリンチャレンジカップ2009』以来の代表マッチ登場だ。
70分、その前田が魅せた。自陣でのパスカットからスピード溢れる攻撃を仕掛け、左足を振り抜く。積極性溢れるプレーだ。
直後の71分、ザッケローニ監督が再び動く。岡崎に代わって関口が、遠藤に代わって阿部勇樹(レスターシティ/イングランド)が起用される。システムは試合開始当初と同じ4−2−3−1だが、ボランチは阿部と長谷部のコンビとなり、中盤は左から香川、本田、関口に。1トップは森本に代わった前田である。また、77分には香川から中村憲剛(川崎フロンターレ)への交代があった。
対するアルゼンチンも、慌ただしくベンチが動く。1点のビハインドを跳ね返そうと、攻撃的なプレーヤーを次々と登場させるのだ。
しかし、日本の守備ブロックは崩れない。中央突破を仕掛けてくる相手選手を数的優位で囲い込み、チャンスの芽をことごとく摘み取っていく。同時に、素早い攻守の切り替えからカウンターを繰り出し、最後まで2点目を奪う姿勢を保ち続けた。88分には前田が自陣からドリブルで持ち込み、決定的なシュートを記録している。
「もちろん我々はいいプレーをしたいと思っていたが、日本は非常に良いチームだった。我々より優れていたと言わざるを得ない。彼らのディフェンスは我々を困難な状況へ追い込んでいった」
アルゼンチンのセルヒオ・バティスタ監督は、淡々とした表情の下に悔しさを隠しているようだった。「日本の技術は高かった。良いチームだった」と、何度も繰り返した。
続いて会見場に姿を見せたザッケローニ監督は、「今回の合宿と試合を通じて、以前から抱いている印象が確信に変わった。日本にはクオリティを持っている選手が多い。2014年のワールドカップを目標として、チームと一緒に成長していってもらいたいと思う」
そして、こう続けたのだ。
「今日の試合は、たくさんある仕事のほんの一部に過ぎない」
アルゼンチン撃破という、最高のスタートを飾ることはできた。だが、目標ははるか先にある。目前の勝利に一喜一憂せず、着実な前進を心がける指揮官のスタンスは、今後への大きな期待を抱かせるものだった。
2月のベネズエラ戦から6試合が行なわれた『キリンチャレンジカップ2010』は、このアルゼンチン戦で年内の全試合を終えた。2010FIFAワールドカップ南アフリカへの強化を後押しし、同大会後は4年後の2014FIFAワールドカップブラジルへ向けた本格的な始動の舞台となったゲームは、チームと選手のレベルアップを促し、ファン・サポーターの記憶にしっかりと刻まれたに違いない。
■10月8日 埼玉スタジアム2002
日本代表 [1-0] アルゼンチン代表
1) GK 川島 永嗣 2) DF 栗原 勇蔵 3) MF 今野 泰幸 4) MF 遠藤 保仁 5) FW 本田 圭佑 6) FW 香川 真司 7) MF 長谷部 誠 8) FW 森本 貴幸 9) DF 内田 篤人 10) FW 岡崎 慎司 11) DF 長友 佑都 |
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1) GK 川島 永嗣
2) DF 栗原 勇蔵
3) MF 今野 泰幸
4) MF 遠藤 保仁
5) FW 本田 圭佑
6) FW 香川 真司
7) MF 長谷部 誠
8) FW 森本 貴幸
9) DF 内田 篤人
10) FW 岡崎 慎司
11) DF 長友 佑都
<代表監督> アルベルト ザッケローニ
<出場選手>
■10月8日/埼玉スタジアム2002
日本代表 (1) 1 | <岡崎 慎司> | |
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アルゼンチン代表 (0) 0 | ||
日本 | ||
GK | 川島(西川) | |
DF | 長友 内田 栗原 | |
MF | 遠藤(阿部) 今野 長谷部 | |
FW | 岡崎(関口) 香川(中村) 本田 森本(前田) | |
アルゼンチン | ||
GK | セルヒオ・ロメロ | |
DF | ガブリエル・エインセ ガブリエル・ミリト マルティン・デミチェリス ニコラス・ブルディッソ(エセキエル・ラベッシ) | |
MF | エステバン・カンビアッソ(マリオ・ボラッティ(アンヘル・ディマリア)) アンドレス・ダレッサンドロ(ハビエル・パストーレ) ハビエル・マスケラーノ | |
FW | ディエゴ・ミリト(ゴンサロ・イグアイン) カルロス・テベス リオネル・メッシ |
*月日/場所
国名(前半得点)総得点<得点者>
*メンバー(交代メンバー)
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