キリンカップサッカー2009
5月27日 日本代表×チリ代表
記念すべき30回目を迎えた『キリンカップサッカー』は1978年に『ジャパンカップ』の名称で始まり、世界の強豪との対戦を通じて日本代表の強化をはかり、サッカーファンに世界の最高峰のプレーを体感してもらおうという趣旨でスタートしたものである。
翌1980年に『ジャパンカップ キリンワールドサッカー』と名称をかえ、85年から現在の『キリンカップサッカー』となった。1992年からはナショナルチーム同士の国際Aマッチとなり、世界的にも注目を集めるようになっている。
そして今回は、現在好調のチリと、ヨーロッパの古豪ベルギーが参戦する。開幕カードとなるこの日は、日本とチリが顔を合わせた。
チリとの対戦は、岡田武史監督の強い希望で実現したものだった。イビチャ・オシム前監督から指揮権を引き継いだ岡田監督は、08年1月26日にチリと対戦している。このチームの初陣だ。『キリンチャレンジカップ2008』として行なわれた試合は0-0の引き分けに終わるが、前線から激しいプレッシャーを仕掛けてくるチリに、岡田監督と選手たちは衝撃を受けたという。1年半前に抱いた「もう一度対戦したい」という思いが、来るべきFIFAワールドカップ南アフリカ アジア最終予選の前哨戦となる『キリンカップサッカー2009』で実現したのだ。
チリ戦に賭ける選手たちの思いは、キックオフ直後からピッチ上に表れていく。強豪相手に臆することなく、前線から意欲的にボールを奪いにいくのである。「守」から「攻」への切り替えも早く、マイボールになった瞬間に複数の選手が動き出す。3日前にJリーグを戦ったばかりの選手もいるが、チームの動きは軽快そのものだ。ドイツ・ブンデスリーガで優勝を決めたばかりの長谷部誠(VfLヴォルフスブルグ)も、持ち前のエネルギッシュさをアピールしている。スタジアム全体に、好試合の予感が拡がっていく。
最初に歓喜が訪れたのは20分だった。4-2-1-3の「1」のポジションに入った中村憲剛(川崎フロンターレ)が、岡崎慎司(清水エスパルス)へロングパスを通す。DFのプレッシャーを受けながらボールをキープした岡崎が、フォローした本田圭佑(VVVフェンロ/オランダ)に落とす。
ゴールまで30メートルはあろうかという距離から、本田が得意の左足を振り抜く。GKは反応するのが精いっぱいで、キャッチングできない。こぼれ球に反応した岡崎は、右足できっちりとゴールネットを揺らしたのだった。中村憲のパスと岡崎の動き出しが重なり、玉田圭司(名古屋グランパス)がDFを引き連れて動くことで本田がスペースを見出す。見事な連動による先制弾だ。
先制点の余韻は、すぐさま新たな興奮へつながる。4分後、日本が追加点をあげるのだ。またも岡崎が、右足で蹴り込んだのだった。
3トップの左サイドからゴール前へ侵入した岡崎のゴールは、センターバックの中澤佑二(横浜F・マリノス)によってもたらされた。自陣右サイドでマイボールになった瞬間、31歳のゲームキャプテンは右サイドのスペースへ飛び出した。チャンスの芽を逃さない起点と、DFラインの背後への丁寧なラストパスは、改めて称賛されるべきだろう。中澤の攻撃参加を生かした長谷部のパスにも、触れなければならないはずだ。
好調なムードの中で、アクシデントに見舞われたのは39分だ。前半早々に右足首を痛めた玉田がプレー続行不可能となり、ベンチへ下がることになってしまったのである。
ここで登場したのが、18歳の山田直輝(浦和レッズ)だった。今回の『キリンカップサッカー』で初めて代表に招集された背番号24の新鋭が、ピッチに送り出されたのだ。これに伴い、岡崎が3トップの中央へ、山田が同左サイドへ入った。
後半ロスタイムには、その山田がチャンスメイクをする。GK楢正剛(名古屋グランパス)のゴールキックを、相手DFに競り勝った岡崎がヘディングで後方へ流す。左サイドから抜け出た山田は、間合いを詰めてきた2人のDFの間からゴール前へクロスを通す。走り込んだ岡崎が頭で合わせたが、ヘディングシュートは惜しくもワクを逸れていった。
デンマーク人のアナス・ヘルマンセン主審の長いホイッスルが鳴り響くと、スタジアムから拍手が沸き上がった。前半のパフォーマンスは、観衆を多いに納得させるものだったからだろう。
後半開始とともに、チリは二人の選手を入れ替えてきた。日本は前半同様のメンバーで、4-2-1-3のフォーメーションである。
後半も最初にチャンスを作ったのは日本だった。49分、右サイド深くの直接FKを、遠藤保仁(ガンバ大阪)がクイックリスタートする。ペナルティエリア右角でフリーになっていた中村憲が、すぐさま左足を振り抜く。相手守備陣の虚をついた一撃が、際どくゴール右へ逸れていった。
51分には鮮やかなパスワークで右サイドを突破する。本田-長谷部-岡崎とつなぎ、右サイドバックの駒野友一(ジュビロ磐田)がタッチライン際を駆け上がる。グラウンダーのクロスを中村憲がスルーすると、ゴール前へ詰めていた山田が反応した。並走するDFにシュートはブロックされたものの、即興にして見事な連携だった。
そして、このプレーが3点目を呼び込む。直後の右CKから、阿部勇樹(浦和レッズ)がヘディングシュートを突き刺したのだ。田中マルクス闘莉王(浦和レッズ)の離脱でセンターバックとして出場した阿部の、07年7月以来となるゴールだった。
3-0となったことで、試合の趨勢はほぼ決した。4日後の31日には、ベルギーとの第2戦も控えている。ここから岡田監督は、積極的に交代選手を起用していく。
まず61分、遠藤が退いて橋本英郎(ガンバ大阪)がそのまま左ボランチに入る。71分には、盛大な拍手とともに岡崎がベンチへ下がり、矢野貴章(アルビレックス新潟)が送り出される。
さらに78分、長谷部に代わって山口智(ガンバ大阪)が投入され、阿部がボランチにポジションをあげる。定位置のセンターバックで中澤とコンビを組む山口は、31歳にして初の国際Aマッチ出場だ。
こうした選手交代を繰り返しながらも、日本はプレーのレベルを落とさない。各選手の動きにためらいや戸惑いは感じられず、スムーズな連携が築かれていく。
そして、実り多きゲームを本田が締めくくった。楢のゴールキックを矢野が競り、背後にいた香川真司(セレッソ大阪)がダイレクトではたく。矢野がスライディングで必死にボールをつなぐと、山田がサポートしていた。「相手をひきつけることだけを考えていた」という山田のラストパスは、「ナオキ(山田)が完璧なパスを出してくれた」という本田の左足ダイレクトシュートで、4点目に結びついたのだった。
大阪から世界へ発進された日本の勝利は、 FIFAワールドカップ南アフリカTM アジア最終予選の対戦相手にプレッシャーを与えるはずだ。もちろん、チームが得たものは大きい。「チリがあれだけアグレッシブにやってくれたので、我々にとってはゆくゆく財産になる試合だった思う。貴重な経験になった」とは、試合後の岡田監督である。
キリンカップの歴史に残るであろう鮮烈な勝利は、最終予選突破への力強い歩みとなったに違いない。
[文: 戸塚啓]
■5月27日 大阪長居スタジアム
日本代表 [4ー0] チリ代表
1) GK 楢 正剛 2) MF 本田 圭佑 3) MF 阿部 勇樹 4) MF 長谷部 誠 5) DF 中澤 佑二 6) DF 駒野 友一 7) MF 玉田 圭司 8) FW 岡崎 慎司 9) MF 遠藤 保仁 10) DF 今野 泰幸 11) MF 中村 憲剛 |
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2) MF 本田 圭佑
3) MF 阿部 勇樹
4) MF 長谷部 誠
5) DF 中澤 佑二
6) DF 駒野 友一
7) MF 玉田 圭司
8) FW 岡崎 慎司
9) MF 遠藤 保仁
10) DF 今野 泰幸
11) MF 中村 憲剛
<代表監督> 岡田武史
<出場選手>
■5月27日/大阪長居スタジアム
日本代表 (2) 4 | <岡崎 慎司 岡崎 慎司 阿部 勇樹 本田 圭佑> | |
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チリ代表 (0) 0 | ||
日本 | ||
GK | 楢 | |
DF | 中澤 駒野 今野 | |
MF | 遠藤(橋本) 中村憲(香川) 阿部 長谷部(山口) 本田 | |
FW | 玉田(山田) 岡崎(矢野) | |
チリ | ||
GK | ミゲル・ピント | |
DF | ガリー ・ メデル(ホセ ・ フエンサリダ) ゴンサロ ・ ハラ ロベルト ・ セレセダ(ホセ ・ ロハス) イスマエル ・ フエンテス |
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MF | マルコ・エストラーダ ロドリゴ・ミジャル ホルヘ・バルディビア(エドソン・プッチ) |
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FW | ファビアン・オレジャナ エステバン・パレデス ジャン・ボセジュール |
*月日/場所
国名(前半得点)総得点<得点者>
*メンバー(交代メンバー)
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