キリンチャレンジカップ2009
10月14日 日本代表×トーゴ代表
レベルアップへの飽くなき欲求は、停滞を拒絶する強い意思につながる。どんな状況下に置かれても、一歩でも前進しようとする意欲的な姿勢を生み出す。
10月14日に宮城スタジアムで行なわれた『キリンチャレンジカップ2009』で、日本はトーゴを5-0と粉砕した。見事なまでの圧勝だった。
ゴールラッシュの口火を切ったのは、10月8日の香港戦でハットトリックを達成した岡崎慎司(清水エスパルス)だ。キックオフ直後の5分、左サイドへ開いたボランチの遠藤保仁(ガンバ大阪)のグラウンダーのクロスが、トーゴの最終ラインとGKの間へ通る。マークするDFの前へ走り込んだ背番号9は、右足にボールを乗せるような軽やかなタッチで、GKの肩越しにネットを揺らしてみせた。
開始早々に押し寄せた興奮の波は、わずか3分後にさらなる歓喜となってスタジアムを包み込む。8分、中村俊輔(エスパニョール/スペイン)の右ショートコーナーからトーゴの守備陣を揺さぶり、右サイドでフリーとなった中村憲剛(川崎フロンターレ)へ田中マルクス闘莉王(浦和レッズ)のパスがつながる。グラウンダーのクロスがゴール前へ供給されると、二アサイドの岡崎が右足ヒールで鮮やかにゴールへ流し込んだのだ。
あっという間の2ゴールで機先を制した日本は、さらに攻撃のエンジンを加速させていく。9分にも岡崎が決定機をつかみ、迎えた11分だった。左サイドの長友佑都(FC東京)のクロスに呼応した森本貴幸(カターニャ/イタリア)が、DFを背負いながらゴール前でボールを収める。マーカーの足が届かないところへボールをトラップし、なおかつ両手をうまく使ってシュート態勢を作り出すと、振り向きざまに右足を振りぬく。カバーに入ってきたDFの股間を抜けたボールは、ゴール左へ突き刺さった。
「試合に出られたことと、点を取れたことは嬉しかったです」と記念すべきゲームを振り返った森本は、「イメージ通りのボールが来ました」と、長友の好アシストにも触れた。10日に行なわれた『キリンチャレンジカップ』のスコットランド戦で国際Aマッチデビューを果たし、この試合が代表初先発となった21歳は、いきなり結果を残したのだった。
その後も日本は、立て続けに決定機を作り出す。「ゴール前での迫力を出すために、ゼロコンマ何秒の感じ方、速さというものにトライしている」と岡田武史監督が話したように、複数の選手の素晴らしい連動から相手ゴールへ迫っていった。
後半開始とともに、岡田監督は3人の控え選手を送り出す。右サイドバックの徳永悠平(FC東京)に代わって内田篤人(鹿島アントラーズ)が起用され、遠藤に代わって本田圭佑(VVVフェンロ/オランダ)が登場する。遠藤と長谷部誠(VfLヴォルフスブルク/ドイツ)のダブルボランチは長谷部と中村憲剛となり、中盤の攻撃的なポジションは右に本田、左に中村俊輔という配置となる。2トップは森本が退き、岡崎と大久保嘉人(ヴィッセル神戸)となった。もちろんこれは基本的な布陣であり、試合の流れに応じて各選手が流動的にポジションを変えていく。
なかでも中村俊輔はチーム全体のバランスを考えながら、チームメイトの良さを巧みに引き出していった。本来の攻撃はもちろんディフェンス面での高い貢献度は、チームリーダーとしての自覚の表れだっただろう。
日本の4点目は65分に生まれた。右サイドのスローインを内田が長谷部につなぎ、ピンポイントのクロスが二アサイドへ。GKの前へ走り込んだ岡崎がきっちりヘディングで合わせた。
昨年10月9日の『キリンチャレンジカップ2008』、対UAE戦で国際Aマッチにデビューした岡崎は、8日の香港戦に続いて2試合連続のハットトリック達成となった。国際Aマッチ18試合で14ゴールという活躍ぶりには、「成長のスピードは驚きに値するものがある」と、岡田監督も称賛を惜しまないほどだ。
このゴールで勝敗は決したと言って良かっただろう。アフリカの強豪トーゴも、「テクニックがあり、組織的でチーム力が高い」とユベール・ベリ監督が評した日本相手に、自分たちの特徴をほとんど発揮することができなかった。トーゴはアデバヨールらの主力を欠いていたが、この日の日本であればベストメンバーの相手でも十分に勝利をつかむことができたはずだ。
特筆すべきは選手たちの意識の高さである。「どんな相手であっても、やらなければいけないことを90分間やり通す」(岡田監督)という『キリンチャレンジカップ2009』に共通するテーマを、選手たちはこの日も貫いた。チーム結成当初から徹底されてきた攻守の切り替えの速さを追求し、攻撃陣も労を惜しまずディフェンスで汗を流し、最終ラインの選手も機を見て攻撃に絡んでいく。「残り8か月、ここから本気で(ベスト4という目標に)チャレンジしていこうという位置づけだった」と中村憲剛が話したように、点差が開いても一瞬たりとも無駄にしない姿勢は、国内では09年最後のゲームとなるこの試合を、限りなく濃密なものにしていただろう。
85分につかんだ5点目は、そうした意欲的な気持ちの表れだった。途中出場の石川直宏(FC東京)が得意のドリブルで左サイドを駆け上がり、グラウンダーのクロスを大久保が左足でシュートする。相手GKに弾かれたこぼれ球は、本田が左足で難なく押し込んだのだった。
「チーム全体としての意識を、統一することができたと思う。相手(のレベル)を抜きにしても、今回の10日間は有意義だった」と話したのは、チームの大黒柱である中村俊輔だ。およそ10日間で香港戦と『キリンチャレンジカップ』の2試合を消化した10月シリーズで、日本代表は様々な成果をあげることができたに違いない。すなわちそれは、自分たちのサッカーに対する手応えと自信であり、チームとしての結束であり、新戦力が加わったことで生まれる競争力である。
「あと8か月、ここからが勝負だと思っています」と岡田監督は語る。世界のベスト4入りを目指す日本代表は、スコットランドとトーゴを迎えた『キリンチャレンジカップ2009』で、さらなる推進力をつかんだのだった。
[文: 戸塚啓]
■10月14日 宮城スタジアム
日本代表 [5ー0] トーゴ代表
1) GK 川島 永嗣 2) DF 徳永 悠平 3) MF 長谷部 誠 4) MF 中村 俊輔 5) DF 中澤 佑二 6) DF 田中 マルクス闘莉王 7) FW 森本 貴幸 8) DF 長友 佑都 9) FW 岡崎 慎司 10) MF 遠藤 保仁 11) MF 中村 憲剛 |
-
1) GK 川島 永嗣
2) DF 徳永 悠平
3) MF 長谷部 誠
4) MF 中村 俊輔
5) DF 中澤 佑二
6) DF 田中 マルクス闘莉王
7) FW 森本 貴幸
8) DF 長友 佑都
9) FW 岡崎 慎司
10) MF 遠藤 保仁
11) MF 中村 憲剛
<代表監督> 岡田武史
<出場選手>
■10月14日/宮城スタジアム
日本代表 (3) 2 | <岡崎慎司 岡崎慎司 森本貴幸 岡崎慎司 本田圭佑> | |
---|---|---|
トーゴ代表 (0) 0 | ||
日本 | ||
GK | 川島 | |
DF | 中澤 田中 徳永(内田) 長友 | |
MF | 中村俊(石川) 遠藤(本田) 中村憲(今野) 長谷部 | |
FW | 岡崎(佐藤) 森本(大久保) | |
トーゴ | ||
GK | ドジ・オビラレ | |
DF | セナ・マンゴ セルジュ・アカッポ ブサリ・アキンソラ アシミウ・トゥレ(ジョナタン・トクプレ) マニエマ・タワリ |
|
MF | サポル・マニ ギヨーム・ブレネール ユロージュ・アホディクペ(ドヴェ・ウォメ) | |
FW | リアベ・クパトゥンビ セルジュ・ガクペ |
*月日/場所
国名(前半得点)総得点<得点者>
*メンバー(交代メンバー)
過去の試合レポートを見る | 過去の試合レポート |
---|