キリンチャレンジカップ2009
10月10日 日本代表×スコットランド代表
日産スタジアムへ詰めかけた6万人を越える観衆と、テレビで試合の行方を見つめたサポーターやファンは、日本代表から力強い息吹を読み取ったに違いない。『キリンチャレンジカップ2009』でスコットランドを迎えた10月10日のピッチには、フレッシュなタレントの瑞々しい躍動感があり、経験豊富な歴戦の勇士の強烈な存在感があった。
英国4協会の強豪スコットランドとの対戦と言えば、『キリンカップサッカー』を思い出すファンは多いだろう。1995年5月21日、加茂周監督と岡田武史コーチに率いられた当時の日本代表は、広島ビッグアーチでスコットランドと初めて対戦している。また、2006年5月13日には埼玉スタジアム2002で顔を合わせている。結果はいずれも0-0のドローで、高さと強さを兼備したスコットランドとの対戦は、それぞれのチームが世界のトップクラスを肌で感じる貴重な経験となったのだった。
今回の対戦もまた、重要な意味を持っていた。「色々な状況をシミュレーションしながら、新しい選手を試すことも考えている」と岡田監督が話していたように、これまで出場機会の少なかった選手、これまで招集されていない選手を見極める機会と位置づけられたのである。2日前にAFCアジアカップ2011 カタール予選が行なわれたばかりのため、このスコットランド戦はチーム全体で戦う必要があったのだ。
日本のキックオフで動き出した試合は、ジャパンブルーの青いユニホームが序盤からピッチを駆けめぐる。2分、本田圭佑(VVVフェンロ/オランダ)とのワンツーで内田篤人(鹿島アントラーズ)が右サイドを突き破り、ライナー性のクロスを供給する。6分には敵陣でのFKを素早くリスタートし、ミドルレンジから本田が得意の左足を振り抜く。
16分にはこの試合初の決定機をつかむ。右サイドで流れるようにパスがつながり、敵陣深くに切り込んだ内田がニアサイドへクロスを供給する。中村憲剛(川崎フロンターレ)の右足シュートは相手DFにブロックされたものの、実に5人の選手がペナルティエリア内に飛び込んでいた。チーム全体のゴールへの意欲が表れたシーンであり、先のオランダ遠征で感じ取った『ゴール前での迫力』を感じさせた。
18分には国内屈指のスピードスターがスタジアムを沸かせる。2004年2月の『キリンチャレンジカップ』以来、5年8か月ぶりの国際Aマッチ出場となった石川直宏(FC東京)だ。ハーフライン手前から、ドリブルで持ち込んでいく。今季のJ1リーグで得点ランキング2位の14ゴール(28節終了時)をあげている28歳が、攻撃に勢いをもたらしていく。
23分には分厚い攻撃が展開された。きっかけを作ったのは、この試合のゲームキャプテンを任された稲本潤一(レンヌ/フランス)だ。橋本英郎(ガンバ大阪)との連携から敵陣で鋭いプレッシャーをかけ、石川へボールをつなぐ。一度はボールを失った日本だが、すぐにセンターバックの阿部勇樹(浦和レッズ)がパスカットに成功し、最後は前田遼一(ジュビロ磐田)の右足シュートがCKをもたらす。公式試合でともにプレーするのは初めてという選手も多いなかで、それぞれの選手の思い切りの良いプレーが、攻守にわたるダイナミズムを生み出していた。
鮮やかなカウンターアタックが炸裂したのは34分だ。センターサークル付近で阿部が相手のボールをインターセプトし、ゴール正面の本田へつなぐ。本田はダイレクトで左サイドのスペースへはたく。中村憲がペナルティエリア内でボールを受ける。人数は4対4の同数だ。本田、石川、前田がゴール前へ詰めるが、中村憲はシュートを選択した。左足から繰り出された高速のシュートがGKを襲うが、わずかにゴール左へ逸れていった。
前半終了時のシュート数は、日本の7本に対してスコットランドが1本だった。CKは7対2である。日本が圧倒的に押し込んでいたことは、データからも明らかだった。
後半開始とともに、スコットランドは2人の選手を交代してきた。いずれも攻撃のプレーヤーだった。ジョージ・バーリー監督からすれば、何とかして打開策を見出したかったのだろう。
しかし、リー・ミラーに代わって出場したスティーブン・フレッチャーは、国際Aマッチ初出場となる岩政大樹(鹿島アントラーズ)と阿部がシャットアウトした。相手の1トップを封じ込むことで、日本は後半も主導権を掌握していく。
56分には岡田監督も動く。その瞬間、スタンドが大きなどよめきに包まれた。髪の毛をきれいに刈り込んだ背番号28──セリエAのカターニャでプレーする森本貴幸が、国際Aマッチデビューを飾ったのだ。前田に代わって1トップに収まった森本は、スムーズに試合の流れに入っていった。
62分、その森本がチャンスを作り出す。ゴールを背にした状態で稲本からパスを受けると、しなやかな反転で相手センターバックのスティーブン・マクマナスを振り切る。対応の遅れたマクマナスが森本の腕をつかみ、主審がホイッスルを吹く。日本に直接フリーキックが与えられたのだ。背番号14と20が、フリーキックのポイントへ向かう。右足なら中村憲、左足なら本田だ。
本田のフリーキックは壁を越えてゴールへ向かうが、前半から好守を見せていたGKクレイグ・ゴードンが弾き出す。「あのスピードでは入らない。GKが弾くやろうなと思った。そのあと、誰か決めてくれればいいと」と本田が振り返ったように、こぼれ球に内田が反応した。右足を振り抜く。だが、シュートは数10センチの誤差でゴール左へ逸れてしまった。
65分には岡田監督が再び動く。徳永悠平(FC東京)、大久保嘉人(ヴィッセル神戸)、松井大輔(グルノーブル/フランス)が同時に投入されたのだ。前線は森本の1トップから大久保と森本の2トップとなり、中村、石川、本田が1トップをサポートしていた中盤は、稲本と中村憲がダブルボランチを組み、右に本田、左に松井という配置になる。2日前の香港戦で国際Aマッチにデビューした徳永は、内田に代わって右サイドバックに入った。
さらに81分、稲本に代わって駒野友一(ジュビロ磐田)が出場し、左サイドバックだった今野泰幸(FC東京)がボランチに。試合の状況を見極めながら控え選手を起用していく指揮官のプランが遂行され、それが勝利への伏線となった。
82分、森本-本田とつながれたボールが、左サイドへ展開される。オーバーラップしてきた駒野のクロスが、スコットランドのオウンゴールを誘ったのだ。相手GKと最終ラインの間へライナー性のクロスを供給し、攻撃陣が飛び込んでいく練習どおりのパターンから導かれた先制点だった。
89分には期待の攻撃陣が結果を残す。駒野のクロスを森本がゴール前で収め、素早い反転から右足のシュートへ持ち込む。DFにブロックされたこぼれ球は、「開いていたコースへそのまま入れるだけだった」という本田が左足で押し込んだのだった。
「日本のプレーは非常に生き生きとしていて、ボールをまわすテンポがとても良かったと思う」
スコットランドのバーリー監督の、試合後のコメントである。敗れたチームの監督はまた、「6万人以上のサポーターによるスタジアムの雰囲気が素晴らしかった。彼らが日本代表をうまくサポートしていたと思う」とも話している。3度目の対戦でスコットランドから初めてつかんだ勝利は、チームの勝利に貢献することで存在感を示そうとする選手たちの思いと、チームを惜しみなくサポートしたいと願う観衆の一体感がもたらしたものだったに違いない。
岡田監督も納得のコメントを残している。「新しい選手、いままで試合に出るチャンスのなかった選手たちが、それぞれの特徴や持ち味を良く出してくれた」と振り返る表情には、はっきりとした手応えが滲んでいた。
スコットランドを撃破するという充実の一歩は、来夏のFIFAワールドカップにもつながっていくことだろう。
[文: 戸塚啓]
■10月10日 日産スタジアム
日本代表 [2ー0] スコットランド代表
1) GK 川島 永嗣 2) DF 岩政 大樹 3) DF 阿部 勇樹 4) FW 前田 遼一 5) MF 本田 圭佑 6) DF 今野 泰幸 7) MF 橋本 英郎 8) MF 稲本 潤一 9) DF 内田 篤人 10) MF 中村 憲剛 11) MF 石川 直宏 |
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1) GK 川島 永嗣
2) DF 岩政 大樹
3) DF 阿部 勇樹
4) FW 前田 遼一
5) MF 本田 圭佑
6) DF 今野 泰幸
7) MF 橋本 英郎
8) MF 稲本 潤一
9) DF 内田 篤人
10) MF 中村 憲剛
11) MF 石川 直宏
<代表監督> 岡田武史
<出場選手>
■10月10日/日産スタジアム
日本代表 (0) 2 | <オウンゴール 本田圭佑> | |
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スコットランド代表 (0) 0 | ||
日本 | ||
GK | 川島 | |
DF | 阿部 岩政 今野 内田(徳永) | |
MF | 橋本(大久保) 稲本(駒野) 中村憲 石川(松井) 本田 | |
FW | 前田(森本) | |
スコットランド | ||
GK | クレイグ・ゴードン | |
DF | クリストフ・ベラ ガリー・コルドウェル スティーブン・マクマナス スティーブン・ホイッテカー リー・ウォレス | |
MF | チャールズ・アダム(スティーブン・ヒューズ) グラハム・ドランズ ロス・ウォレス(ドン・コウィ) クレイグ・コンウェイ(デレク・リオーダン) | |
FW | リー・ミラー(スティーブン・フレッチャー) |
*月日/場所
国名(前半得点)総得点<得点者>
*メンバー(交代メンバー)
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