キリンチャレンジカップ2008
10月9日 日本代表×アラブ首長国連邦(UAE)代表
アラブ首長国連邦(UAE)を国内に迎えたゲームと言えば、2005年5月27日の『キリンカップサッカー2005』を思い出す方がいるかもしれない。国立競技場で行なわれた一戦で、ジーコ監督(当時)率いる日本代表は0-1の苦杯をなめた。しかし、この敗戦からチームは様々な教訓を得ることができ、ドイツ予選の突破へつなげたのである。
今回のUAE戦も、3年前の『キリンカップサッカー』と同じように重要な意味を持っていた。10月15日に控えた対ウズベキスタン戦へ向けたテストマッチという位置づけだ。試合前日の記者会見に臨んだ岡田武史監督は、「ウズベキスタンに勝つためにも、UAEに対しても勝つためにベストを尽くしたい」と、東北電力ビッグスワンスタジアムを舞台とした一戦への意気込みを表していた。
10月7日に集合したメンバーには、欧州のクラブに所属する中村俊輔(セルティック/スコットランド)、稲本潤一(フランクフルト/ドイツ)、長谷部誠(VfLヴォルフスブルグ/ドイツ)の名前があった。また、森重真人(大分トニリータ)、興梠慎三(鹿島アントラーズ)、岡崎慎司(清水エスパルス)、森島康仁(セレッソ大阪)らの“北京世代”が初めての招集を受けたのも、UAE戦の見どころである。その一方で、浦和レッズとガンバ大阪に所属する選手たちは、アジアチャンピオンズリーグ準決勝第1戦が前日に行なわれたため、今回の『キリンチャレンジカップ2008 ALL FOR 2010!』には参加しないこととなった。
開始2分、東北電力ビッグスワンスタジアムをこの日最初のどよめきが包む。岡崎のパスを受けた玉田圭司(名古屋グランパス)が倒され、ペナルティエリアのすぐ外で直接FKを得たのだ。ボールをセットするのはもちろん、背番号10を着けた中村俊である。日本が誇るフリーキッカーに、いきなり見せ場が訪れたのだ。左足から放たれた一撃はUAEの7枚の壁をすり抜けていくが、惜しくもGKにキャッチされた。
ここから日本は、攻撃のエンジンをどんどんと加速していく。12分、右サイドバックの内田篤人(鹿島アントラーズ)が、岡崎をポスト役にして左足シュートを放つ。1分後、中村俊→玉田→長谷部→中村俊とリズムカルにパスがつながり、最後はペナルティエリア内の岡崎が振り向きざまのシュートを浴びせる。「練習でやってきたことを、前半から意識してやっていた。うまくいかないこともあったけど、やろうという意識は何回かみられた。それは良かったと思う」とは、試合後の中村俊である。
流れのなかだけではない。リスタートでもチャンスを作り出した。24分、5月27日の『キリンカップサッカー2008』、対パラグアイ戦以来の出場となる寺田周平(川崎F)が、左サイドから長谷部が蹴ったFKに飛び込む。しかし、巧みなヘッドはわずかにゴール右へ逸れた。
前半終了間際には、立て続けに決定機をつかむ。39分、稲本のパスを受けた玉田が、左サイドの角度のないところから左足でゴールを襲う。44分、長友のクロスを大久保が頭で合わせる。ゴールの予感を強く漂わせながら、日本はハーフタイムを迎えた。
後半の幕開けも、中村俊の直接FKだった。大久保へのファウルで得た左足のFKは、7枚のカベを越えてゴール右上へ向かっていく。しかし、懸命に反応した相手GKに弾き出されてしまった。
54分には大久保が相手ゴールへ迫る。右サイドを突いた玉田の動きに合わせて、ゴール前でフリーになる。右足インサイドで押し込む。だが、至近距離からのシュートはバーを越えてしまった。
岡田武史監督が動き出す。57分、玉田を下げて興梠を投入する。65分、稲本に代えて中村憲剛(川崎F)が送り込まれる。さらに70分、中村俊から香川真司(セレッソ大阪)へスイッチされる。こうした交代のたびに、攻撃が活気づいていく。ピッチとスタンドの一体感が高まり、UAEを追い詰めていく。
東北電力ビッグスワンスタジアムに歓喜が弾けたのは、72分のことだった。興梠のヘディングシュートは右ポストに弾かれるが、跳ね返ったボールが右サイドの内田にわたる。グラウンダーのパスを内田が通すと、フリーで走り込んだ香川が右足で流し込んだのだった。「いいところにボールがきたので、あとは決めるだけでした」という国際Aマッチ初ゴールは、日本代表史上3人目の若さ(19歳206日)で記録されたものでもあった。
リードを奪った直後に失点を喫してしまい、『キリンチャレンジカップ2008』は1-1で幕を閉じる。しかし、日本にとっては成果の多い一戦だったと言えるだろう。
ライナー性やグラウンダーのクロスを多用したのは、長身選手の多いウズベキスタンを意識したものだったはずだ。リミットいっぱいの6人の選手を交代させたのも、コンビネーションを確認するためだったと理解できる。自信を深めながら課題を明らかにするというテストマッチの本質が、UAEとの攻防には詰まっていたのだ。
「初めて出た選手、若い選手、それぞれの選手が自分のいいところを出してくれました。あとは私が、どれだけ(いい)組み合わせをするかというところだと思います。これを教訓にして、次のウズベキスタン戦はぜひ勝ちたいと思います」
試合後の記者会見で、岡田監督はこう語っている。落ち着いた口調には、来るべき決戦への手応えが感じられた。申し分のないステップを踏んだチームは、10月15日のウズベキスタン戦を万全の態勢で迎えることだろう。
[文: 戸塚啓]
■10月9日 東北電力ビッグスワンスタジアム
日本代表 [1ー1] アラブ首長国連邦(UAE)代表
1) GK 楢 正剛 2) MF 中村 俊輔 3) MF 稲本 潤一 4) DF 寺田 周平 5) DF 中澤 佑二 6) DF 長友 佑都 7) FW 岡崎 慎司 8) MF 長谷部 誠 9) FW 大久保 嘉人 10) FW 玉田 圭司 11) DF 内田 篤人 |
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1) GK 楢 正剛
2) MF 中村 俊輔
3) MF 稲本 潤一
4) DF 寺田 周平
5) DF 中澤 佑二
6) DF 長友 佑都
7) FW 岡崎 慎司
8) MF 長谷部 誠
9) FW 大久保 嘉人
10) FW 玉田 圭司
11) DF 内田 篤人
<代表監督> 岡田武史
<出場選手>
■10月9日/東北電力ビッグスワンスタジアム
日本代表 (0) 1 | <香川真司> | |
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アラブ首長国連邦(UAE)代表 (0) 1 | <I.アルハマディ> | |
日本 | ||
GK | 楢 | |
DF | 寺田(高木) 中澤 長友 内田 | |
MF | 中村俊(香川) 稲本(中村憲) 長谷部 | |
FW | 玉田(興梠) 大久保(佐藤寿) 岡崎(巻) | |
アラブ首長国連邦(UAE) | ||
GK | マジド・ナセル | |
DF | ハイダル・アロ・アリ バシール・サイード ファレス・ジュマ アブドラ・マララー(モハメド・オスマン) オバイド・メスマーリ | |
MF | モハメド・イブライム(ナワフ・ムバラク) ユーセフ・ジャベル アメール・ムバラク | |
FW | イスマイル・マタル モハメド・アルシェヒ(イスマイル・アルハマディ) |
*月日/場所
国名(前半得点)総得点<得点者>
*メンバー(交代メンバー)
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