キリンチャレンジカップ2008
7月29日 U-23日本代表×U-23アルゼンチン代表
北京五輪への最終調整として、これ以上の相手は用意できないだろう。なでしこジャパン(日本女子代表)対アルゼンチン女子代表戦に続いて行なわれた『キリンチャレンジカップ2008』で、U-23日本代表はU-23アルゼンチン代表と激突したのである。
4年前のアテネ五輪で金メダルを獲得したアルゼンチンは、北京オリンピック2008でも優勝候補の一角にあげられている。フェルナンド・ガゴ(レアル・マドリード/スペイン)、セルヒオ・アグエロ(アトレティコ・マドリード/スペイン)らの才能豊かな若手が揃い、フアン・ロマン・リケルメ(ボカ・ジュニアーズ)、ハビエル・マスケラーノ(リバプール/イングランド)らがオーバーエイジ枠で加わったチームは、フル代表と比較しても遜色がないだろう。何しろ、来日した17選手のうち、実に14選手が欧州各国のクラブに所属しているのだ。バルセロナ(スペイン)所属のリオネル・メッシは来日しなかったが、これほどハイレベルのチームと対戦できる機会はなかなか得られるものではない。
4万人を越える観衆のどよめきとともに幕を開けたゲームは、両チームともに一歩も譲らない攻防となる。5分、リケルメの直接FKが右ポストを叩けば、10分には本田圭佑(VVVフェンロ/オランダ)の直接FKから日本が決定機を作り出す。谷口博之(川崎フロンターレ)と森重真人(大分トリニータ)がFKに飛び込み、相手選手との競り合いからこぼれたボールが森重の足元へ。しかし、苦しい態勢から放れたシュートは勢いがなく、相手GKの胸に収まった。
司令塔リケルメを軸としたアルゼンチンの攻撃は、世界の一級品と表現するにふさわしいものだった。ボール保持者はつねに2トップの動きを確認し、チーム全体がタテへ向かう意識を強く持つ。密集にもちゅうちょなく飛び込んでくるから、日本の守備陣はまず中央へ絞らざるを得ない。そうやって開いた両サイドのフリースペースに、2列目、3列目から選手が飛び出していく。攻撃のお手本のようなサッカーだ。
それでも日本は、チーム全体がハードワークを心がけ、1対1の局面でも互角以上に渡り合う。最終ラインがやや下がり気味になってしまう弊害はあったものの、素早い攻守の切り替えと連動性を武器に、アルゼンチンの守備陣を慌てさせていくのである。
38分、自陣でパスカットをした本田圭がドリブルで持ち上がり、中央の谷口へ。ボールはダイレクトで右サイドのスペースへつながる。飛び出した内田篤人(鹿島アントラーズ)が倒され、マスケラーノにイエローカードが出される。
この反則で得た直接FKは、前半のひとつのハイライトだった。本田圭が得意の無回転のキックをゴール前へ入れる。誰かが押し込めば1点という場面だったが、ボールは左ポストをかすめるように逸れていった。
後半も日本は、意欲的にゲームを進めていく。49分、アグエロの突破から際どいシーンを作られるが、52分にはこぼれ球を香川真司(セレッソ大阪)が思い切りのいい右足ミドルで叩く。アルゼンチンに攻められてもひるまないメンタリティは、5日前のU-23オーストラリア代表戦に続く勝利を予感させていただろう。
58分にはクイックリスタートから香川がドリブルで持ち込み、本田圭がミドルレンジから左足を振り抜く。高速でカーブを描いたボールはGKのセーブを許さないが、惜しくもバーに弾かれてしまった。
65分、反町康治監督は1トップの豊田陽平(モンテディオ山形)を下げ、森本貴幸(カターニャ/イタリア)を投入する。本番さながらの、勝敗を強く意識した選手交代だ。
その直後だった。リケルメからアグエロへつながれ、アンヘル・ディマリア(ベンフィカ/ポルトガル)が鋭い反転から右足を振り抜く。GK西川周作(大分トリニータ)が懸命のセーブを試みるが、指先にボールを当てるのが精いっぱいだった。68分、アルゼンチンがスコアボートに1点を刻んだ。
リードを奪ったアルゼンチンは、意図的にペースを落としていく。「60パーセントから65パーセントの仕上がり」(セルヒオ・バチスタ監督)ということを考えれば、1-0で十分ということだったのだろう。
77分、反町監督が再び動く。長友佑都(FC東京)と岡崎慎司(清水エスパルス)を同時に送り出し、勝負を仕掛ける。オーストラリア戦で決勝ヘッドを叩き出した岡崎の登場に、スタジアムのテンションも高まる。
だが、思わぬ結末が待ち構えていた。後半開始から降り続く豪雨が雷雨となり、84分で試合が一次中断される。6分後、シンガポールのパンディアン・パラニヤンディ主審は試合終了を決定した。両チームの選手のコンディションや観客の安全などを考えれば、正しい決断だったと言えるだろう。
「強敵アルゼンチンに怯むことなく、相手を困らせることができたし、逆にこちらが驚かせることもできたのは、評価していいのでは。あと一週間強をうまくコントロールして、初戦のアメリカ戦で今日の二倍くらいの力強さを見せられればと思う」
試合後の反町監督は、アルゼンチンとの意義ある時間をこう振り返った。収穫を自信につなげ、課題を謙虚に受け止めるテストマッチの目的は、十分に果たされていたのだ。
84分で中断してしまっただけに、敗戦を認めるのが少し悔しいというファン・サポーターもいることだろう。しかし、北京オリンピック2008で、アルゼンチンともう一度対戦する可能性もある。『キリンチャレンジカップ2008』の決着は、待ち望んだ舞台でつければいい。
[文: 戸塚啓]
■7月29日 国立競技場
U-23日本代表 [0ー1] U-23アルゼンチン代表
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1) GK 西川 周作 2) DF 森重 真人 3) FW 豊田 陽平 4) MF 梶山 陽平 5) MF 谷口 博之 6) MF 本田 圭佑 7) DF 水本 裕貴 8) MF 香川 真司 9) DF 内田 篤人 10) DF 安田 理大 11) MF 本田 拓也 |
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1) GK 西川 周作
2) DF 森重 真人
3) FW 豊田 陽平
4) MF 梶山 陽平
5) MF 谷口 博之
6) MF 本田 圭佑
7) DF 水本 裕貴
8) MF 香川 真司
9) DF 内田 篤人
10) DF 安田 理大
11) MF 本田 拓也
写真提供/(c)Jリーグフォト
<U-23日本代表監督> 反町 康治
<出場選手>
■7月29日/国立競技場
U-23日本代表 (0) 0 | ||
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U-23アルゼンチン代表 (0) 1 | <アンヘル・ディマリア> | |
U-23 日本 |
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GK | 西川 | |
DF | 水本 森重 安田(長友) 内田 | |
MF | 本田拓 谷口 梶山 本田圭(岡崎) 香川 | |
FW | 豊田(森本) | |
U-23 アルゼンチン |
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GK | オスカル・ウスタリ | |
DF | パブロ・サバレタ ルシアーノ・モンソン エセキエル・ガライ ニコラス・パレハ | |
MF | フェルナンド・ガゴ フアン・ロマン・リケルメ ハビエル・マスケラーノ | |
FW | セルヒオ・アグエロ エセキエル・ラベッシ(ラウタロ・アコスタ) アンヘル・ディマリア(ホセ・ソサ) |
*月日/場所
国名(前半得点)総得点<得点者>
*メンバー(交代メンバー)
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