キリンカップサッカー2004
7月9日 日本代表×スロバキア代表
7月13日 日本代表×セルビア・モンテネグロ代表
第1戦:vsスロバキア代表
6月9日のインド戦からちょうど1ヵ月。7月下旬開幕のアジアカップへ向けて、日本代表が<キリンカップサッカー2004>から再び動きだした。7月9日、2000年8月以来の登場となる、広島ビッグアーチが舞台だ。
今回の<キリンカップサッカー2004>は、アジアカップへの重要な強化と位置づけられている。中田英寿、稲本潤一、楢崎正剛、久保竜彦がケガで出場できず、小野伸二はU−23日本代表にオーバーエイジとして参加するため、今大会のメンバーに選ばれていない。それでもジーコ監督は、「貪欲に結果を求めていく。ヨーロッパスタイルの2か国を相手に勝ちにいく」という、強い姿勢を打ち出していた。果たして、主力選手の不在でチャンスを得た選手たちは、きっちりと結果を残した。
最初のビッグチャンスは16分。左サイドから持ち上がった三都主アレサンドロが、ゴール前へグラウンダーのパスを供給する。福西崇史がスルーする。福西の背後でパスを受けた玉田圭司が、ダイレクトでゴール左へスルーパスを通す。走り込んだ福西がゴール前へ折り返す。鈴木隆行がフィニッシュする。ワクを逸れたシュートを福西が再びゴール前へ戻し、玉田が飛び込む。最後はDFにブロックされたが、スピーディーなパス交換でスロバキアのDF陣を翻弄した場面だった。
日本の攻撃力を目の当たりにしたスロバキアは、すぐに守備重視のシステムに切り替えた。「4バックで戦いたかったが、日本に押し込まれたので6バックのようになった」というガリス監督の言葉どおり、ゴール前を固めてきた。それでも、日本に焦りはなかった。「相手が守りを固めてくるのは分かっていたが、そのなかでも焦らずに攻めることができていた」とジーコ監督が振り返ったように、じっくりと好機をうかがう。そして44分、中村の1本の狙いすましたタテパスから鈴木が抜け出し、GKと1対1になる。トラップがわずかに大きくなったためシュートは打ち切れなかったが、このプレーでつかんだCKから先制点が生まれた。
45分、中村の左CKを福西がヘッドを決めたのである。福西のインド戦に続く2試合連続ゴールで、日本は前半を1−0で折り返すことに成功した。
後半開始直後、日本をアクシデントが襲う。相手FWとの競り合いで、坪井慶介が左足を負傷してしまったのだ。代わって田中誠が3バックの右サイドに入る。
スコアが動いたのは65分。右CKからP・バブニッチに同点ヘッドを献上してしまう。至近距離からのシュートにGK川口能活は鋭く反応したが、ボールに触るのが精いっぱいだった。日本もすぐに反撃する。同点とされた直後の66分、相手陣内でのFKを三都主が素早いリスタートで中村につなぎ、中村のスルーパスから鈴木が右足で冷静に流し込む。「いつも狙っていた」と中村が語ったイメージどおりのスルーパスが、立ち込めた暗雲をすぐに払拭したのである。
さらに81分、今度は柳沢だ。相手GKへのバックパスを追いかけ、GKへ猛烈なチャージを仕掛けてボールを強奪。そのまま無人のゴールへ流し込んだのだ。ここではバックパスを誘った三浦淳宏の激しいディフェンスも、同時に称賛されるべきだろう。
結局、3度の<キリンカップサッカー>出場となるスロバキアを相手に、日本は02年大会に続く勝利を収めた。 「アジアカップでの戦いを考えると、湿度の高いなかで引いてきた相手を崩せたのはいい参考になる。将来に役立つゲームだった」
試合後、ジーコ監督はこう言って選手たちを讃えた。2試合連続出場となった川口も、「インド戦よりさらに落ち着いたゲームができたと思う。きっちり勝つことができたのはやはり大きい。このままいいイメージを持ってアジアカップへつなげていきたい」と手応えをつかんでいた。
スタメンでは初めてのコンビとなる鈴木と玉田の2トップや、スムーズなコンビネーションを見せた遠藤と福西のダブルボランチなど、この試合の成果は多い。攻撃のオーガナイザーとしての、中村の充実ぶりも頼もしいかぎりだ。また、平均身長183センチの大型チームだったスロバキアを、リスタートの1点に抑えたディフェンスの安定感は見事だった。
「2トップはとても良かったし、中村も彼の特徴を発揮していた。次の試合では選手同士の息がもっと合ってくるだろうし、変化のある攻めができるだろう」13日のセルビア・モンテネグロ戦への期待を込めて、ジーコ監督は試合後の記者会見を締めくくった。
第3戦:vsセルビア・モンテネグロ代表
日本、セルビア・モンテネグロともにスロバキアとの第1戦に勝利しているが、得失点差では日本が上回っている。このため、引き分けでも<キリンカップサッカー2004>の優勝が決まる状況だったが、日本はあくまでも勝利を追求した。これまで日本に一度も勝ったことのないセルビア・モンテネグロは、初勝利を目ざしてきた。こうして試合はタフでハードな攻防の連続となる。
序盤のペースをつかんだのは日本だった。
3分、左サイドを突破した三都主アレサンドロが、ファーサイドへクロスを供給する。鈴木隆行がヘディングで折り返す。これを玉田圭司が頭で詰めたが、シュートはわずかにバーを超えていった。
5分、またもスタジアムが沸く。右サイドから中村俊輔が入れたクロスを、ペナルティエリア左の遠藤保仁がチェストパスで玉田へ。玉田のシュート性のクロスに鈴木が反応するが、わずかにタイミングが合わない。
セルビア・モンテネグロも反撃する。
10分、ラゾビッチが左サイドからドリブルで持ち込み、相対する田中誠を振り切る。ゴールラインぎりぎりまでドリブルしたラゾビッチのクロスが、日本のゴール前を横切る。GK川口能活は出られない。触れない。逆サイドからパンティッチが詰める。しかし、ギリギリで帰陣した三都主が身体を張ってシュートコースを限定した。その後は局面での潰し合いの応酬となる。ラフプレーの一歩手前の激しさで、セルビア・モンテネグロは日本の良さを消去しようとする。それでも日本はひるまない。
加地亮と三都主の両アウトサイドがタイミングよく前線へ飛び出し、決定的な場面に絡んでいく。
相手のファウルで得たリスタートからも、チャンスを創出した。29分、右サイドのFKを中村がゴール前へ。ニアサイドへ走り込んだ中澤祐二が、どんぴしゃりのヘディングシュートを放つ。相手GKのファインセーブに阻まれたが、インド戦でもゴールを生んだ中村と中澤のコンビは、セットプレーの重要なオプションとなっていることを印象づけた。
34分、今度はセルビア・モンテネグロが日本ゴールに迫る。経験豊富なキャプテンのミロシェビッチが、身体を寄せてきた田中を吹き飛ばしてゴール前へスルーパスを通す。フリーで走り込んだイリッチが右足で合わせたが、GK川口が確実にキャッチした。
試合が動いたのは後半開始直後。遠藤が加地にパスをつなぎ、ボールは福西へ。福西は鈴木へタテパスを送り、鈴木がダイレクトで右前方へ流す。ここに、遠藤が走り込んでいた。フリーで抜け出した彼は、キックフェイントでGKを交わし、無人のゴールへ冷静に流し込んだのである。「相手のゴール前にスペースが空くところがあり、遠藤や福西が2列目から上がればチャンスになるという指示はしていた」
試合後、ジーコ監督はこう語っていたが、複数の選手の意図が見事にリンクした先制ゴールだった。
ここから試合はヒートアップする。セルビア・モンテネグロのプレーはさらに激しさは増し、ペナルティエリア外から積極的にシュートを放ってくる。しかし、GK川口が正確なキャッチングで相手の攻撃を絶ち、試合の主導権は譲らない。
71分、ジーコ監督は玉田を下げて柳沢敦を投入する。その4分後、柳沢のパスを受けて鈴木がペナルティエリア左に侵入し、得意の左足でゴールを狙う。さらに78分、左サイドのFKから遠藤が右足ミドルを放つが、わずかにバーを超えていく。追加点を奪うことはできないものの、セルビア・モンテネグロにもチャンスを許さず、1−0のまま優勝のホイッスルを聴いた。
「非常にいい試合。理想的な戦いだった。何をすべきかを、選手みんなが分かってきている。1−0とリードしたあとも、自分たちのサッカーをやり通すことができていた」
試合後のジーコ監督のコメントである。続けてアジアカップへの抱負を聞かれた指揮官は、自信を込めてこう答えた。優勝宣言とも受け取れる、頼もしい言葉だ。「課題はいくつもあるし、サッカーに完璧はない。これからも、すべてのプレーの精度を上げていく。ただし、チームは自信を持っている。この勢いを落とさずに自分たちのサッカーをきちんとやれば、どんなチームとも戦うことができる」
2001年以来となる3か国対抗戦を制し、日本代表はジーコ監督のもとで初めてのタイトルを獲得した。<キリンカップサッカー>優勝で、アジア制覇への準備は整った。
いざ、中国へ。
いざ、アジアカップへ──。
[文: 戸塚啓]
■7月9日 広島ビッグアーチ
日本代表 [3ー1] スロバキア代表
■7月13日 横浜国際総合競技場
日本代表 [1ー0] セルビア・モンテネグロ代表
1) DF 中澤佑二 2) DF 坪井慶介 3) MF 三都主アレサンドロ 4) MF 福西崇史 5) FW 鈴木隆行 6) GK 川口能活 7) MF 中村俊輔 8) MF 加地亮 9) MF 遠藤保仁 10) FW 玉田圭司 11) DF 宮本恒靖 |
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1) DF 中澤佑二
2) DF 坪井慶介
3) MF 三都主アレサンドロ
4) MF 福西崇史
5) FW 鈴木隆行
6) GK 川口能活
7) MF 中村俊輔
8) MF 加地亮
9) MF 遠藤保仁
10) FW 玉田圭司
11) DF 宮本恒靖
<代表監督> ジーコ
<出場選手>
■7月9日/広島ビッグアーチ
日本代表 (1) 3 | <福西><鈴木><柳沢> | |
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スロバキア代表 (0) 1 | <バブニッチ> | |
日本 | ||
GK | 川口 | |
DF | 坪井(田中) 宮本 中澤 | |
MF | 加地 遠藤 福西 三都主(三浦) 中村(小笠原) | |
FW | 鈴木(本山) 玉田(柳沢) | |
スロバキア | ||
GK | チョントファルスキー | |
DF | ポリョブカ(ウルバン) スニンスキー(ドレジャイ) ボルベリ ジュリツァ シュクルテル |
|
MF | チェフ ジョフチャーク | |
FW | レイテル(ブレシュカ) バブニッチ キシュカ(ベラク) |
■7月13日/横浜国際総合競技場
日本代表 (0) 1 | <遠藤> | |
---|---|---|
セルビア・モンテネグロ代表 (0) 0 | ||
日本 | ||
GK | 川口 | |
DF | 田中 宮本 中澤 | |
MF | 加地 遠藤 福西 三都主 中村 | |
FW | 鈴木 玉田(柳沢) | |
セルビア・ モンテネグロ |
||
GK | イェブリッチ | |
DF | シャラツ(ネズィリ) ドゥディッチ ヨキッチ ぺトコビッチ | |
MF | ムラデノビッチ(ブクチェビッチ) イリッチ マリッチ(ブクミール) パンティッチ(マルコスキ) |
|
FW | ラゾビッチ(イェストロビッチ) ミロシェビッチ(コラコビッチ) |
*月日/場所
国名(前半得点)総得点<得点者>
*メンバー(交代メンバー)
<ポスター・パンフレット>
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