キリンカップサッカー2003
6月8日 日本代表×アルゼンチン代表
6月11日 日本代表×パラグアイ代表
第1戦:vsアルゼンチン代表
ジーコ監督はかねてから、「難しい場面にぶつかったときに、自分に何が足りないのかが初めて分かる。そこに強豪とやる意味があるのだ」と語ってきた。昨年11月に続いて2度目の対戦となった6月8日のアルゼンチン戦は、コンフェデレーションズカップを控えたチームが世界のトップレベルを体感する、貴重な機会となった。
スタメンに名を連ねたのは、5月31日の韓国戦を戦ったメンバーでほぼ固められた。唯一の変更は、3日前の合宿からチームに合流した中田英寿が中盤に入ったことだった。同時にジーコ監督は、キャプテンの合流とともに新しいオプションにトライする。中田英をトップ下に据えて小笠原満男、稲本潤一、中田浩二が3ボランチ気味に並ぶ、変則のダイヤモンド型で中盤が組まれたのだ。
サネッティ、アイマール、サビオラら欧州のビッグクラブでプレーする選手を並べたアルゼンチンは、前回の対戦と同じく全力で日本にぶつかってきた。序盤から守備の時間が長い日本は、それでも、辛抱強くチャンスをうかがっていく。スタンドが沸いたのは25分。パスカットした中田浩が中田英へ素早くつなぎ、ボールは左サイドへ流れた中山雅史につながる。中央へ走り込んだ鈴木隆行へラストパスが供給されるが、アルゼンチンのDFが直前でカットした。直後の30分、アルゼンチンが日本に襲いかかる。左サイドのソラリからパスを受けたアイマールが、中央へドリブルで持ち込む。日本選手の注意がアイマールへ集中した瞬間に、ボールは真横のサビオラへつながれた。ダイレクトで振り抜かれた右足の技巧的なシュートが、日本のゴールネットを揺らす。日本も負けていない。コンディションをあげてきた稲本がドリブルから持ち込んでシュートを放てば、中田英も厳しいチェックをかいくぐってゴールを襲う。ところが45分、右サイドから強引なドリブルで突進してきたサネッティに、サビオラとのワンツーから豪快な右足ミドルを決められてしまう。決して悪い流れではなかったし、守備の集中が切れていたわけでもない。相手のシュートをほめるしかない失点だった。
後半開始とともに、ジーコ監督は3人の選手を交代する。小笠原が下がって三都主アレサンドロが入り、中盤はいつものボックス型に戻る。また、中山に代わった大久保嘉人が、初の国際Aマッチとなるピッチに送り込まれた。開始直後の47分、右サイドから三都主が入れたフリーキックに、鈴木と秋田豊が飛び込む。しかし、わずかにタイミングが合わない。49分、右サイドバックの名良橋晃のパスを、鈴木が稲本へつなぐ。そのままドリブルで持ち込んだ稲本がシュートするが、コースに入ったDFに防がれる。51分、今度は大久保だ。左サイドの三都主のクロスを、左足ボレーでワクへ持っていく。そして53分、待望のゴールが生まれた。三都主の右CKを、秋田がヘディングで決めたのだった。日本の攻勢は続く。57分、パスカットした服部年宏がドリブルで持ち込み、鈴木を経由したボールが左サイドの三都主へ。ニアサイドに走り込んだ中田英へスルーパスが通るが、ほんの少しだけタイミングがずれた。その後、アルゼンチンに2点を追加されたが、その後失点を許さず何とか持ちこたえた。
「ラテンのチームを精神的に乗せてはいけない。前半にリズムを作らせてしまったのがいけなかった。合宿でやってきた基本的なことを、前半のうちから出せていれば……」試合後、ジーコ監督は悔しさを滲ませた。中田英も「前半は非常にバランスが悪かった」と振り返り、稲本も反省の弁を口にした。「向こうのプレッシャーが速くて、そこで自滅してしまった。3ボランチがワイドになりすぎて、引いてきた相手のFWを自由にさせすぎてしまった」結果は1-4だったが、日本がイニシアチブをつかんだ時間帯はあった。後半の2失点は、秋田のへディングシュートに触発されたアルゼンチンが、プライドを見せつけた結果だったとも言える。
アルゼンチンが最後まで真剣勝負を挑んできたことで、日本はいくつかの課題を見つけることができた。それこそは発展途上のチームに必要なことであり、ジーコ監督がテストマッチに求めていることでもある。長居スタジアムのフィールドに、明日につながる材料は確かにあった。
第2戦:vsパラグアイ代表
アルゼンチン戦から二日後、埼玉スタジアムに舞台を移してパラグアイ戦が行われた。南米のクラブとの2連戦は、コンフェデレーションズカップで対戦するコロンビアを想定したものである。ジーコ監督はこの日もスタメンに手を加えてきた。これまで不動だった最終ラインを、右から山田暢久、坪井慶介、宮本恒靖、三都主アレサンドロで構成したのである。坪井は国際Aマッチ初出場で、山田は初スタメンだ。三都主がサイドバックでプレーするのも、日本代表では初めてだった。中盤に中村俊輔、前線に高原直泰と、2人の欧州組も加わった。さらに遠藤保仁、大久保嘉人が初スタメンと、攻撃陣もフレッシュな陣容である。アルゼンチン戦から2試合連続で先発したのは、GK楢崎正剛と中田英寿だけだった。
しかし、急造チームの印象はなかった。ジーコ監督は言う。「三都主だけは初めてだが、最終ラインの選手たちは紅白戦ではいつも一緒にプレーしている。相手に得意なプレーをさせなければ、日本の個性が発揮できると思っていた」実際に、そのとおりの展開になった。1分、日本はいきなりパラグアイのゴールへ迫る。右サイドの中村のFKが逆サイドに流れ、大久保が中央へ折り返す。高原と福西崇史が飛び込むが、わずかにコンタクトできなかった。3分、山田がクロスボールを入れ、ゴール前に走り込んだ中田英が頭で落とす。大久保が反応していたが、DFに一瞬早くクリアされた。2分後、パラグアイの最終ラインを完全に崩す。三都主、中田英とつなぎ、左サイドに流れた高原がラストパスを中央へ。フリーの中村が左足で狙ったが、惜しくもGKに阻まれた。
アルゼンチン戦からの顕著な変化は、中盤から前線でしっかりとボールをキープできることにあった。中田英と中村、2トップの高原と大久保がそれぞれ起点となることで、両サイドバックが積極的に飛び出せるようになったのである。同時に、最終ラインの押し上げも可能になった。最終ラインと中盤の間に無駄なスペースがなくなり、ボールを失ってもすぐに対処できるようにもなった。最終ラインと中盤の関係が改善されたことについては、遠藤と福西の働きを強調しておきたい。二人とも中盤を幅広く動いて守備をこなしながら、遠藤は攻撃の起点として、福西はゴール前への積極的な飛び出しで攻撃面でも貢献していた。攻守のつながりとバランスが良くなった日本に、失点の不安はほとんどなかった。あとは、ゴールを奪えるかどうかだ。チャンスは続いた。21分、中村の右CKから大久保がヘディングシュートを放つ。30分、福西のショートパスを受けた高原が、振り向きざまに右足で狙う。36分、遠藤のパスを受けた中村が、DFをかわして左足ミドルでゴールを襲う。鋭い弾道の一撃が、わずかに右へ逸れていく。パラグアイをノーチャンスに封じ、ゴールの予感を漂わせながら、日本はハーフタイムを迎えた。
後半も日本の攻勢は変わらない。左足太股を痛めた福西に代わって中田浩二が入るが、中盤のバランスは適正に保たれていた。51分、日本がビッグチャンスがつかむ。中村のスルーパスを受けた三都主が、ペナルティエリア左でDFをかわし、至近距離から右足シュートを放つ。だが、ボールは右ポストのわずかに外へ流れていった。埼玉スタジアムがもっとも盛り上がったのは75分だった。左サイドから三都主があげたクロスボールを、ファーサイドの大久保が頭で合わせたのだ。ゴール!ところが、副審のフラッグが上がっていた。オフサイドである。その後はチャンスをつかめなかったが、パラグアイには一度も決定機を許さなかった。0-0とはいえ、内容的には圧倒した。
「勝てなかったのは残念だけど、パラグアイ相手に攻め続けることができた」と、楢崎は内容を評価した。「ある程度は組織的にプレスをかけられるようになって、ラインが深くならなくなった。前の試合よりは良くなっていると思う」という中田浩のコメントも、チームが前進していることを示している。「パラグアイはいつも7、8人が深く戻って守備をしていた。もともと僅差で逃げきる試合が多く、あのチームから点を取るのは難しい。細かい修正はあるが、大きな問題はない。このままの勢いでコンフェデレーションズカップに臨みたいと思う。目標はグループリーグ突破だ」今後への明るい兆しを見出したのだろう。ジーコ監督の表情には手応えが浮かんでいた。コンフェデレーションズカップへ、期待を抱かせた<キリンカップサッカー
−Go for 2006!−>の第2戦だった。
[文: 戸塚啓]
■6月8日 長居スタジアム
日本代表 [1ー4] アルゼンチン代表
■6月11日 埼玉スタジアム2002
日本代表 [0ー0] パラグアイ代表
1) DF 三都主アレサンドロ 2) MF 中村俊輔 3) GK 楢崎正剛 4) MF 福西崇史 5) DF 坪井慶介 6) MF 遠藤保仁 7) DF 宮本恒靖 8) DF 山田暢久 9) FW 大久保嘉人 10) FW 高原直泰 11) MF 中田英寿 |
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1) DF 三都主アレサンドロ
2) MF 中村俊輔
3) GK 楢崎正剛
4) MF 福西崇史
5) DF 坪井慶介
6) MF 遠藤保仁
7) DF 宮本恒靖
8) DF 山田暢久
9) FW 大久保嘉人
10) FW 高原直泰
11) MF 中田英寿
<代表監督> ジーコ
<出場選手>
■6月8日/長居スタジアム
日本代表 (0) 1 | <秋田> | |
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アルゼンチン代表 (1) 4 | <サビオラ><サネッティ><ロメオ><ロドリゲス> | |
日本 | ||
GK | 楢崎 | |
DF | 名良橋 秋田 森岡 服部 | |
MF | 稲本 中田英 小笠原(福西) 中田浩(三都主) | |
FW | 中山(大久保) 鈴木(永井) | |
アルゼンチン | ||
GK | カバジェロ | |
DF | コロチーニ キロガ サネッティ プラセンテ | |
MF | カストロマン(エインセ) カンビアッソ アイマール(リケルメ) ソラリ(ロドリゲス) | |
FW | ガレッティ サビオラ(ロメオ) |
■6月11日/埼玉スタジアム2002
日本代表 (0) 0 | ||
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パラグアイ代表 (0) 0 | ||
日本 | ||
GK | 楢崎 | |
DF | 山田 宮本 坪井 三都主 | |
MF | 福西(中田浩) 遠藤 中田英 中村 | |
FW | 大久保 高原 | |
パラグアイ | ||
GK | タバレジ | |
DF | トレド マルドナド カセレス ダシルバ | |
MF | モリニゴ(イララ) ボネ A・オルティス ブリテス(サナブリア) | |
FW | クエバス(ロペス) サムディオ(バレイロ) |
*月日/場所
国名(前半得点)総得点<得点者>
*メンバー(交代メンバー)
<パンフレット>
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