いつもより、きちんと
「食」と向きあうきっかけとなった日。
知っているつもりでいた塩や果物やハーブの、
一歩踏み込んだこと。
組み合わせることと、
そこから生まれる変化のこと。
実際に目で、舌で感じ、話しあい、
笑いあい、ひらめきを持ちより、
ほんとうにたくさんの人たちと、いろいろな体験を分かちあえた、あの夏の23日間。
そこでは、いったい何が起きていたのでしょう。
ささ、そのようすをどうぞ。
ソルティライチ発想のもと、ローイゲーオ
私たちがタイの家庭を旅して出会った“ローイゲーオ”。旬の果物に、塩と氷を合わせたこのデザートこそ、「ソルティライチ」の発想のもととなったもの。日本ではあまり知られていない、この新しいおいしさを感じて欲しくって、オリジナルレシピで考えた全6種類を、前半と後半に分けて提供しました。
ポイントは「対比効果」。塩のしょっぱさが、果実の本来持つ甘さをぐいっと引き立て濃厚になるのですが、その「引き立ち方」が果物によって異なり、食感もとりどり。また素材の組み合わせにも注目が集まり、とりわけリンゴとジンジャーが「合う!」と好評。
食べているみなさんを直撃すると、ほとんどがローイゲーオ初体験。感想は揃いも揃って「甘くて、冷たくて、夏にぴったり!」と、まるでCMタレントのように?笑顔で叫んでくれました。
組み合わせが楽しい塩と果物の生ジュース
塩と果物、ふたつが組み合わさった時にもたらされる味の変化を、“自分で選んで”感じることができるのが、「旅するキッチン」ならではのおもしろさ。
順番はこう。まずカウンターで、7種のなかから好きな果物を選んで注文します。その場でミキサーにかけ生ジュースにしたものを受け取り、奥の塩コーナーへ。粒の大きさも形も色も異なる10種の塩がずらりと並ぶなか、レッツびっくり飲み比べ、ゴー! 塩を入れる前と後、塩の種類、量、いろんな組み合わせで、あれやこれや試します。
開発チームの私たちも顔負けの、さも真剣な表情で入念に塩を選び、ひと口飲んでは目を丸くしたり、笑顔になったり。いっしょに来ている家族や友人どうしで「こっちのほうが甘みが引き立つ」などと感想を言いあうシーンもしばしば。決して喉をうるおすだけじゃない、フルーツジュースの楽しみ方を、文字通り「体験した」ようでした。
3種のフリードリンクコーナー
キッチンの脇には商品を買ってくださった方だけのお楽しみ、フリードリンクコーナーを設置。実はこれ「お好きにどうぞ」なんて風を吹かせておきながら、私たちのこれまで旅したひらめきが、うんとこめられたものでした。
まずラズベリー、ブルーベリー、ブラックカラント、ストロベリーをさっと煮て水で割ったベリーウォーターは「5種のベリーと天然水」発想のもととなった、スウェーデンの家庭料理「サフト」から。甘さは控えめ、ベリー本来の味と香りを楽しめます。
そしてレモングラス、ミント、ローズマリー、3種の生ハーブを緑茶で割ったフレッシュハーブティーの発想は、ギリシャの知恵からひらめいた「冴えるハーブと緑茶」と同じ。ディスペンサーのなかにハーブがどっさり入った、まさにフレッシュな風味。この思いがけない贅沢ドリンクを、来場者のみなさんが見つけた時の、うれしそうな顔ったら!
私たちが、すっかり“知ってるつもり”で
いたこと。
さらに1歩も2歩も踏み込んだ、
食にまつわるしくみやからくりを、
みなさんといっしょに、
私たちもしっかり学んで、
あたらしい発見や、
次なる発想につなげたい。
そんな思いから始まったのが
「旅するキッチン」のワークショップ。
ジャム、ハーブ、塩ー。
まずは、身近な3つのテーマの“そもそも”から。
ジャムについて学ぼう!
ジャムはパンにぬるもの?
パンにぬったり、ヨーグルトにかけたり。参加するみなさんに聞いても「ジャムの使い道って、まぁそのくらいだよね」というムードのなか「ジャムを甘味と酸味のある調味料として考える」と目からウロコの発想を示してくれたのが、講師であるシェフ フードコーディネーターの山田優さん。
まずは、ジャムはペクチンと酸と糖でできていて、そのバランスがキモであること。またレモンは酸とペクチンの両方を持っていること。さらに保存と糖度の関係などをみっちり学んだあとは、実際にジャム作りへ!
「すもも」「桃」「ルバーブ」チームに分かれ……つつも、それぞれが席をあちこち移動しながら、他のチームのプロセスをのぞき見したり、またできたものを味見しあったり。さらにドレッシングやソースにしたりといった、調理の活用法もあれこれ伝授。会場じゅうが、甘い匂いと好奇心でいっぱいでした。
ハーブについて学ぼう!
ハーブは添え物?
料理の上にちょこんと添えたあしらいとして。ひと昔前はそんなふうに思われていたハーブも、今や料理はもちろん、心やカラダに対してさまざまな効果が期待できるらしい?と、その薬効にも俄然注目。そんなハーブの底知れぬ力を詳しく、分かりやすく教えてくれたのが「生活の木」の北川由以さん。
ウェルカムドリンクとしてふるまわれたハーブティーとハーブスコーンを楽しみながら、実際にフレッシュハーブに触れ、その手触りや香りを確かめていきます。「なぜ人が香りを感じるか?」「どうして心やカラダに作用するの?」といったメカニズムを、五感を使って学びます。
今回は、馴染み深いのに、意外と使い方のレパートリーを知らないローズマリーに注目!「若返りのハーブ」とも呼ばれ、近年、その薬効に注目が集まっていますが、育つ場所によって成分が大きく異なるといった、トリビアネタから、香りの採り方、香りと記憶の関係、脳への作用をしっかり学んだ後は、実践編。
お料理への応用はもちろん、簡単なおもてなし術や、クリームやオイルを使った美容への活用法など、硬軟織り交ぜつつローズマリーをぐいぐい深掘り。最後には、ローズマリーとラベンダーの万能バームを作って終了。「これでハーブの正体が分かりました」「日常に彩りと潤いをもたらすヒントをたくさんいただきました」と、盛りだくさんの内容に参加者も大満足のようすでした。
塩について学ぼう!塩はワルモノ?
高血圧の人は摂りすぎには要注意など、何かとワルモノにされがちな塩。でも、本当のところはどうなの?を、素敵に、ゆかいに、きちんと教えてくれたのが、参加者より“塩美人”と名付けられた「一般社団法人日本ソルトコーディネーター」協会代表理事の青山志穂さん。
青山さん自身、塩を毎日のように採っているけれどむしろ健康になった(!)という実体験から始まり「人は塩がないと生きられない」おどろきの理由から、人のカラダと塩の関係性、産地や採取場所、製法による種類、ミネラル成分の違いなど、マニアックなお話を、図や写真をふんだんに使いながらポップに解説。
さらに「塩は百肴の将」と呼ばれるように、塩のうまみを引き出す効果や、食材との相性、原料と製法による味の感じ方など、塩の基礎科学についてとことん、とことん。そしておまちかねのシーズニングソルト作り!塩にスパイスやハーブなどを好きに組み合わせ、自分だけの味を作ります。
「料理を作る要領で」という先生のアドバイスのもと、あれこれ入れて混ぜながら、みんな揃ってニッコニコ。おたがいの作った塩を試しながら「性格が出るねー」などと笑いあう姿も。「知らないことだらけでした。これからお料理が楽しくなりそう」と、参加者みなさんの、これからの“塩生活”が変わりそうな予感むんむんのようでした。
来場者のみなさんに
「あなたの味の記憶を付箋に書いて、
壁に貼ってください」と
呼びかけところ、
集まるわ、集まるわ、
みっちりすきまもないほどの、
みなさんからのうれしい言葉の数々を
いただきました。
とくに目についたのは、世界じゅうの旅で
出会った、ちょっと珍しくておいしかった
食べものやデザートなど。
私たちの、次の旅への想いに駆られる
きっかけとなりました。
あたらめて、ありがとうございました。
ここにたどり着くまでの、
私たちのリアルな思い
そもそもからして、それは
「単なるイベント」にも「ふつうのお店」にも、
できないことだらけでした。
私たちがふだん、新しい飲みものを考える時に
している学びを、そこからのひらめきを、
みなさんに追体験いただき、
ともに分かちあいたい。
提供するとか、教えるとか、そんな上から目線
じゃなくて、私たちも一緒に、本気で学びたい。
そして次の、新しい飲みものを作るときの
何かに、必ずつなげたい。
そんな(貪欲と言えば貪欲な)思いから、
「旅するキッチン」の着想が生まれました。
ただそれは同時に、来てくださる方に対して
「おいしい、かわいい」で終わるのではなく。
もっと参加して欲しい、
もっと自分で考えるきっかけとなって欲しい、
そんな願いもありました。
だからこそ私たちは、
すべてをお膳立てするのではなく、
果物と塩の組み合わせを自分で選べたり、
ワークショップの形式にしたり、
あえて「のりしろ」を持たせた作りに。
でもそんなこと、
ほんとにやってもらえるのだろうか?
あきれるほど話しあい、
試行錯誤を繰り返し、すべてが未知数、
(実は)おっかなびっくりのまま
「旅するキッチン」の幕は開いたのです。
結果から言えば。みなさんの反応は
私たちの想像を大きく上回るものでした。
塩と果物をあれこれ試して、
それぞれ“自分の一番”を見つけてくれたり、
「味の記憶を教えてください」という
呼びかけに、
たくさんのコメントを
(みんなびっしり、しかもきれいに!)
くれたり、
ワークショップで
参加者どうしが積極的に交流してくれたり。
私たちが得た大きな収穫は、
私たちがプロの開発者として、
食に対して常日頃取り組んでいる
「ひとつ深い学び」を、
みなさんも楽しんでくれただけでなく、
専門家の「あたりまえ」を、その柔らかな
アタマでほぐしてくれたことでした。
新しい何かを知ることで、視点が変わり、
広がり、さらにもっともっと!
という思いを
強く持つこと。何も学びは難しいことではなく、
好奇心がムクムクともたげる、
楽しいことであるということ。
そして、食ときちんと向きあうことは、
自分と向きあうことでもあること。
「来る前」と「来たあと」では、
どこか少し違う、あたらしい意識が
ふっくらと
芽生えてくれたのなら、
こんなにうれしいことはありません。
いつか旅で見た、澄み切った空のような
ブルーが映えるキッチンのある空間で、
みなさんと分かちあえたことを糧に、
旅はこれからも、私たちも、
みなさんのなかでも続いていきます。
ようこそ、ようこそ。「旅するキッチン」へ。