同級生鼎談 私たちの原点と「発酵・バイオテクノロジー」

キリングループ全体の取り組みを紹介するインターナルブランディングWebサイト『KIRIN Now』の記事を社外用に編集して公開しています。(公開日2024年5月15日)

藤原 大介

キリンホールディングス株式会社 執行役員
ヘルスサイエンス研究所 所長

安蔵(あんぞう) 光弘

メルシャン株式会社 企画部 エグゼクティブ・ワインメーカー(2024年3月14日取材時:生産・SCM本部 エグゼクティブ・ワインメーカー)

板垣 祥子

協和キリン株式会社 執行役員
Chief People Officer (CPO) / Global HR Head(2024年3月14日取材時:戦略本部 経営企画部長)

キリングループの食・医・ヘルスサイエンスそれぞれの分野で活躍している三人が実は大学の同級生、ということで企画した鼎談です。
藤原の拠点の一つである湘南のヘルスサイエンス研究所に集まり、大学時代の話から、三人の共通項である「発酵・バイオテクノロジー」について、語り合いました。

ヘルスサイエンス研究所のある、湘南アイパーク外観

所属する研究室は、くじ引きで

──実はこの鼎談は、以前安蔵さんに取材した際、藤原さんと板垣さんが同級生、と教えていただいたところから始まった企画です。本日はどうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、お三方が卒業された、東京大学農学部農芸化学科と大学院農学生命科学研究科は、どういったところでしたか?

安蔵:当時、私たちの所属していた農芸化学科は80人くらいでしたね。

板垣:そう言えば当時、所属する研究室の選考はくじ引きで決められていましたよね?

安蔵:トランプとか使ってましたね。

板垣:私は「食糧化学」研究室に行きたかったんですけど、定員オーバーで。くじ引きの結果、「農薬学」研究室に決まりました。名前のイメージが良くないですよね。ただ、くじで決めるなんてひどい仕組みだと思いつつも、入ってみると意外になじんでしまって。結局修士課程でもその研究室に進みました。

安蔵:希望した研究室に行けない人も多かったけど、農芸化学科は、どこを選んでも面白さがあったよね。生物を相手にする学問だから。

私は比較的ゆるいと評判の研究室に入ろうとしたのですがくじ引きで落ちてしまい、「微生物利用学」の研究室を選びました。行ってみると自分に合った研究室でした。

一方で、藤原さんはエリート研究室の「醗酵学」研究室に自ら志願したから驚きました。夜中まで研究をバリバリやるようなところだったからキャラに合わないだろうと。

藤原:私は十分下調べもしないまま、厳しい研究室の醗酵研になぜか入ってしまったんです。みんなから「おまえが醗酵研?」と驚かれ、案の定すぐついていけなくなって、研究室のヒストリーに名を刻むほどの落ちこぼれでした。だから学生時代は、麻雀ばかりやっていました。

安蔵:藤原さんは麻雀が強かった。思い切りのいい打ち方をするんですよね。

藤原:安蔵さんに唯一勝てたのは麻雀だけ。安蔵さんは、私と違って最初から「お酒に関する仕事をしたい」と言ってた。入学時すでにやりたいことが決まっている人は珍しいですよ。

板垣:私も卒業後に何をやりたいかは決まっていなかったです。

藤原:安蔵さんは学生の時、利き酒コンテストにも出ていましたね。

安蔵:そうそう。日本酒の利き酒の大会に出たりしてました。他にも大学4年生のとき、日本中の酒蔵から日本酒を集めて学園祭で出すという企画があったのですが、責任者に名乗りを上げる人がおらず、私がやりましたね。お酒をより好きになったきっかけでもあります。

就職で道は、分かれた?

──大学院を卒業後、どのような経緯や動機で、それぞれの会社に入社されましたか?

藤原:教授から「就職はどうするんだ」と聞かれて「キリン」と答えたら、電話してくれて。私の所属している研究室自体は有名だったので、それで採用が決まったのかなと。

ただ「研究所だけは向いてないので絶対に行きません」と人事部に伝えていて、本当は工場採用だったんです。でも、入社式の前日に人事部長から電話があって「2年間だけ研究所に我慢して行ってください」と。けれど2年経ったらその部長はいなくて、以来ずっと研究畑。ひどい話でしょ(笑)。

でも良かったのは、最初の上司が最高に素晴らしい人で、研究が面白くなったこと。だから、研究に火がついたのは会社に入ってからでしたね。

板垣:それだけ藤原さんが欲しかったんでしょうね。

私は大学でうっすら食品関係の仕事に就きたいと思っていたのが、くじ引きで農薬学研究室に入ることになって。植物ホルモンに関する研究をしていたんですけど、就職はどうしようかと悩んでいました。

当時、研究室の先生がよくお酒を飲む方で。夕方5時くらいになると飲む相手を探してうろうろし始めるんです。

安蔵:私の研究室にもよく飲みに来ていた(笑)

板垣:そのせいもあってビールは身近な存在で、ビール会社でありながら医薬事業もやっていたキリンビールに興味を持ったんです(※1)。

私は医薬の研究職として採用され、医薬品の商業生産プロセスを立ち上げたり、製造販売の承認に必要なデータを取得して申請資料を作成したりする研究所に入りました。そこに10年ほどいたのですが、「自分には研究は向いていないかな」と。それよりも人と接する仕事の方が面白いと感じていて、当時所属していたプロジェクトの薬事担当者が、チームをリードしたり当局と交渉したりするのを見て魅力的だなと思い、薬事部に異動希望を出しました。

そこからはずっと薬事で仕事をし続けてきたので、これまでのキャリアは研究半分・薬事半分。そして、3年前に、私にとっては青天の霹靂(へきれき)だったのですが、経営企画部に異動となりました。

  • ※1
    当時、キリンビール内に医薬事業を手掛ける部門があった。現在の協和キリンの前身の一部。

安蔵:私はメルシャンに入社しました。大学在籍時からお酒に関わる現場で働きたいと思っていたので。まだメルシャンがキリングループではなかった時代ですね。

メルシャンの最終面談の際に人事担当役員に「研究所ではなく、現場でワインを造りたい」と伝えました。来年で入社30年目ですが、藤原さんと違って人事の方が覚えてくれていたのか(笑)、今まで研究所へ配属されたことはなくて。ワイナリーを3年、本社で商品開発を1年半、そのあと再びワイナリーへ戻って3年、フランスへ4年くらい行ったあと、その後本社で品質管理業務を7年。またワイナリーに戻って8年、そして昨年、今のポジションに就きました。

──同じ大学で学び、就職の時にはそれぞれ違う分野に分かれたお三方が、今は同じキリングループというのはすごいですね。

板垣:この3人に限らず、キリングループを見渡すと多くの同級生がいますし、人の縁って不思議だなと感じます。また社外でも、研究職だけじゃなくて、いろいろな職種に当時の仲間がいて。薬事をやっていたときは、規制当局の担当者が同級生だったこともありました。卒業して一回もこの3人だけで会うことはなかったけれど、こうして集まると当時を思い出せて楽しいです。

安蔵:研究室は分かれていましたが、根っこは同じ。農芸化学科の約80人全員で、広い実験室で、大学3年の頃学生実験というものを毎日していました。他にもソフトボール大会が年に2回開かれたりもして。勝ったチームが負けたチームを研究室に招いてもてなすという文化もあり、研究室同士の交流は活発でしたね。同じ釜の飯を食べていたような親近感・連帯感があります。

藤原:農芸化学はとても実践的な学問で、「ずっと研究だけし続けます」というタイプではなく、「研究したことを社会に生かしたい」という学生が集まっていた。結果、さまざまなフィールドで活躍しているのかなと思いますね。

板垣:良いこと言った。

安蔵:良いこと言った。

藤原:(笑)

成った実は違う。けれど根っこは同じ

──農芸化学は、動植物や微生物を相手にした学問で、キリングループのコア技術である「発酵・バイオテクノロジー」とも関わりが深いと思います。現在のお仕事で「発酵・バイオテクノロジー」はどのように関わっていますか?

板垣:バイオ医薬品を作る技術は日進月歩で発展しています。またニーズも変化し、疾患の進行を抑制するだけでなく、根本的に治癒できるような医薬品が求められるようになり、実際にそれらを可能とする新たな技術も実用化し始めています。

私たちは「発酵・バイオテクノロジー」を発展させ、革新的な技術もキャッチアップして、これらの高まるニーズに応えていかなければならないと感じています。

安蔵:ワイン事業の半分は、ブドウをつくる農業です。ブドウをつくる農業の視点とブドウからワインをつくる発酵の視点、両方がセットになっています。その点は、ビールもウイスキーも日本酒も同じですよね。

シャトー・メルシャンでは現在、自社管理畑を運営していて、農業も含めて管理できる体制があります。そのため、ワインづくりを意識して、発酵に最適な熟度でブドウを収穫するといったことができて、そういう点が面白いですね。

藤原:板垣さんは医学、安蔵さんは農学の面で「発酵・バイオテクノロジー」と結びついているんですよね。

キリングループは「発酵・バイオテクノロジー」と言っていますが、「バイオテクノロジー」ならやっている企業はいくらでもあります。そこでキリングループにしかないオリジンを見出すとしたら「発酵」なんです。発酵に由来するバイオテクノロジー、しかも、医薬品をつくるほどに研ぎ澄まされたもの。だからこそ「発酵技術」だけでも、「バイオテクノロジー」だけでもない「発酵・バイオテクノロジー」と言うんだと思います。

安蔵:キリングループとして、「発酵・バイオテクノロジー」と盛んに言うようになったのは最近なのかな。でも、違和感は全くなかったですね。

板垣:私もです。

藤原:根っこの「発酵・バイオテクノロジー」は同じでも、それが木の上で実として成ったときに「食」と「医」では、全然違ったものとして目に映りますよね。「食」と「医」の間にものすごく距離を感じる人がいるのも分かるんですが、でも、サイエンスの観点から見れば、食から医がつながっているのは、すごく自然なこと、当たり前のことなんですね。

──キリングループの「発酵・バイオテクノロジー」の強み、ユニークさはどこにあると思いますか?

板垣:ものづくりと強く結びついているところだと思います。

医薬品の種は見つかっても、大量に安定的に製造するのはとても難しいのですが、協和キリンにはそれを実現できる優れた製造技術があると思っています。そこにはキリングループの技術も生かされていて、例えば「エスポー」の原薬を商業生産するために開発したローラーボトルシステムには、大量のビール瓶を無菌管理するキリンの技術が応用されています。医薬品とビールではもちろんレギュレーションが異なりますが、ものづくりという点では共通していて、今もビール工場からはさまざまなことを教えてもらっています。

そうしたものづくりの技術が、「発酵・バイオテクノロジー」と結びついているところが、キリングループならではですよね。

藤原:私は、医薬事業に取り組んでいることで、「発酵・バイオテクノロジー」のサイエンスのレベルをより高めていることが大きな特長だと思います。

他の食企業では、医薬事業を切り離しているところも多い中、キリングループではそうではないですよね。その状態でヘルスサイエンス事業で健康食品をつくり、売っている。製薬会社としてのブランドを傷つけてはいけないという意識をもって事業をしていることが、他社との差別化にもつながっています。

それに研究の面でも、意義は大きいです。私は元々ビールの研究者で、免疫に関する知識は医薬事業から教わりました。その知見が今の研究にも生かされています。

安蔵:キリングループが経営の大事な軸として取り組んでいるCSV(※2)。CSVとは、社会貢献だけでなく同時に企業として利益を出さなければなりません。つくり出すものが、どのように社会へ役立つかという視点がCSVにはありますよね。

「テクノロジー」というと技術で商品をつくるところまで、というイメージがありますが、キリングループの場合は、お客様がどのように使って、企業として世の中にどう役に立てるかという視点を持っています。「発酵・バイオテクノロジー」がそれ単体ではなく、CSVと結びついているところが、キリングループの「らしさ」なんだと思います。

  • ※2
    CSV(Creating Shared Value)共通価値の創造。社会的ニーズや社会問題の解決に取り組むことで社会的価値の創出と経済的価値の創出を実現し、成長の次なる推進力にしていくこと。(2011年にハーバード大学のマイケル E. ポーター教授とマーク R. クラマー氏が提唱した概念。)

キリングループ企業情報サイト‐社会との価値共創新しいウインドウで開きます

「発酵・バイオテクノロジー」のこれから

──「発酵・バイオテクノロジー」の今後の可能性について、皆さんのお考えをお聞かせください。

板垣:食と医とヘルスサイエンスがグループとしてつながっているところに可能性を感じます。協和キリンでは変革に挑戦する人や組織をつくりたいと思っています。医薬品は人の命に関わるので、その分レギュレーションも厳しいのですが、その中でも、医薬事業に参入した時のベンチャースピリットを忘れずに生き生きと活躍してほしい。

その点では、食やヘルスサイエンスという異なる分野が同じグループ内にあることは大きな意味があります。私の役割として、規制にとらわれず互いに学び合い、自由闊達にチャレンジできる場の提供や人材交流に力を入れていきたいと思います。

安蔵:自分は微生物とずっと向き合ってきました。学生の頃「自然に期待して、こんな機能が欲しいと思って自然に相談すれば、ちゃんとそれが得られる」と先生から言われました。本当にその通りで、こんな代謝の機能を持っていないかと思って微生物を探すと必ず見つかるんです。自然の持つポテンシャルはすさまじい。人間が活用できている自然の割合はきっと1パーセントくらいで、まだまだ無限の可能性があります。

そこから価値のあるものを引っ張り出せれば「発酵・バイオテクノロジー」はまだまだ発展していくと思いますね。

藤原:私たちが大学へ入った頃、バイオテクノロジーは、金にならない「オワコン」と言われていました。今は真逆。バイオテクノロジーをマネタイズする手法や世界に届ける仕組みが整った時代です。これから激しい競争が起こっていくはず。

安蔵さんの取り組んでいるような自然と向き合った発酵のテクノロジー、板垣さんが取り組む研ぎ澄まされた、発酵から発展したテクノロジー。どれだけ時代が進んでも「発酵」というキリングループのオリジンを忘れないことが大切で、それが、今後の勝ち筋にもつながっていくと思います。

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