健康のキーワードは「腸」。キリンの腸内細菌検査「MicroBio Me(マイクロバイオミー)」ができること
キリン公式noteより(公開日2024年1月19日)
誰もが「腸活」という言葉を口にするほど、健康を維持するための重要な器官として「腸」は注目を浴びつづけています。最近の研究では、腹痛や下痢などのお腹の不調のほか、癌や鬱病、肥満や認知症などとも腸内細菌が関係していることが明らかになっているそう。
そんな私たちの健康に重大な関わりがある腸内細菌についてのサービスが、2023年7月よりキリンでも本格的にスタートしました。サービスの名前は「MicroBio Me(マイクロバイオミー)」。
腸内細菌が大切だということはわかったけれど、どうしてキリンがこのようなサービスをはじめたのか、疑問に思う方もきっと多いはず。
そこで今回は、「日本一詳細な腸内細菌検査」(※1)だと謳うこのサービスが生まれた背景や今後の展望を、事業の立ち上げを担当した3名に聞きました。
※1 腸内細菌を網羅的に測定する検査のうち、菌のもっとも詳細な分類階級である種や株レベルまで測定できるショットガンメタゲノム解析を採用。(2023年11月キリン社調べ・研究用途除く)
ー早速ですが、キリン初の腸内細菌検査事業「MicroBio Me(マイクロバイオミー)」とはどんなサービスでしょうか?
浅見:健康診断や遺伝子検査のように腸内細菌を検査し、その検査結果をもとに健康になるためのお手伝いをするサービスです。取り扱いがある医療機関に行けば、どなたでも受けることができます。
より詳しく説明すると、まず腸内細菌の種類や数、機能を測定します。それから腸内細菌の状態をAからEまでの5段階評価でレポーティングするんです。レポートには菌がよろこぶ食材の種類など、腸内細菌の状態をよりよくするためのアドバイスも書かれています。
ーほかにも腸内細菌検査サービスはありますが、「MicroBio Me」ならではの特徴や強みを教えてください。
浅見:強みは、日本でもっとも詳細な腸内細菌検査だということです。「ショットガンメタゲノム解析」という手法を使うことで、菌の種類と菌の機能を詳細に知ることができるんです。
ー詳細にわかると、利用者にはどんな利点があるのでしょうか?
浅見:一番の利点は、一人ひとりの腸内細菌に合ったアドバイスができることですね。例えば、腸にはヨーグルトや発酵食品がいいと言われていますが、実は人によって腸内細菌をよくする食べ物は異なる可能性があるんです。
金山:残念なことに、ヨーグルトを食べても体感がある人とない人がいます。
浅見:そうなんです。そこで「一体何を食べたらいいのか」「どんな行動をとればよいのか」、一人ひとりに合った最適なアクションを知るためにこのサービスが役に立ちます。
金山:どうして「MicroBio Me」ならそれがわかるのか、ちょっと難しい話になってしまいますが説明しますね。
生物は「門・属・種・株」などの階級で分類されています。ただし、日本で一般的に実施されている「16S」という腸内細菌検査では「属」まで分析できても「種」や「株」までは難しいです。けれど「MicroBio Me」は細かい種や株レベルまでわかるんです。
生物の腸内細菌の階級図。一般的に「門・属・種・株」などの階級で分類されている
金山:例えば、腸内には「ラクトバチルス」という菌がいます。「16S」でわかるのはここまで。けれど「MicroBio Me」ならより詳細に「ラクトバチルス カゼイ」「ラクトバチルス アシドフィルス」など、一番小さい菌まで知ることができるんです。
加えて、腸内細菌の機能を知ることができ、ビタミンや短鎖脂肪酸などの生産力を推測できます。その結果、積極的に摂りたい栄養素を把握することが可能になり、医師から検査結果に基づいた適切な指導を受けることもできるんです。
「MicroBio Me」検査イメージ。これまでの検査と比べて、腸内細菌をより詳細に解析し、腸内細菌が持つビタミンや短鎖脂肪酸の産生機能までわかるように
ービタミンなどは食べ物から摂取するものだと思っていました。菌が栄養素を作っているんですか?
金山:たしかに食事から摂取することは重要ですが、腸内細菌のエサとなる食物繊維やオリゴ糖などを食べると、菌が体の中でビタミンや短鎖脂肪酸、乳酸を作ることがわかっています。
浅見:例えば検査の結果、腸内細菌のビタミンを作る能力が低かったなら、それに適した食べ物やサプリメントを摂ればいい。詳細に検査できるからこそ、自分にとってのベストな食べ物や行動を知ることができるんです。
ーちなみに、腸内細菌を整えることが必要な人はどのような症状の方がいるんですか?
浅見:腸の不調として一般的にわかりやすいのが下痢や腹痛ですが、今や研究で認知症や鬱、糖尿病、肥満に癌や精神疾患、アレルギーなどにも腸が関係していることがわかっています。そのため原因不明の日々の不調も、腸内環境をよくすると改善できるかもしれないんです。
そのほか、具体的な病名を挙げるとしたら「過敏性腸症候群」に苦しんでいる方もいらっしゃいます。
金山:過敏性腸症候群は膨満感や下痢、腹痛などを慢性的に起こしてしまう病気のことです。薬などで一時的に症状を抑えることはできても、根本的に治すことは難しいと考えられています。
川久保:慢性的にこの症状があると、外出先でしょっちゅうトイレを探さなくてはならなくなるなど、生活の質が下がってしまうんですよね。
浅見:日本には過敏性腸症候群で悩んでいる方が1,200万人(※2)いると言われています。この数字は人口の約10%にのぼるんです。僕自身、こんなにも多くの方が悩んでいるとは知らなかったのでびっくりしました。
ーそんなに多いんですね。キリンが腸内細菌検査サービスに取り組む意義をどのような点に感じていますか?
浅見:初めて見た方は、どうしてビールを造っているキリンが腸内細菌の診断サービスを始めたのか不思議に思いますよね。けれどキリンにはビール造りで磨いてきた発酵技術があります。発酵にも菌が重要。決して遠い分野ではないんです。
現在は健康診断や血液検査が健康状態をはかる指標になっていますが、僕は腸内細菌から自分の身体の状態を見る時代が来ると思っています。
キリンが持っている菌への知見や腸内細菌の研究成果を使ったサービスを今から育てていけば、これからさらに腸内細菌の研究が進んだ未来で、皆さんの健康にもっと貢献できると思うんです。
川久保:例えば、浅見が挙げた検査のほかにも遺伝子検査ってありますよね?遺伝子検査は、遺伝的傾向を調べることでどの病気にかかりやすいのかなどを分析し、予防に役立てるものです。とても役に立つ検査だと思いますが、遺伝子は持って生まれたものですから、変えることはできません。
けれど腸内細菌は食生活などの生活習慣で変えることができる。だからこそ、食品会社である我々が取り組むべき意義があると思います。
(※2)「すべての臨床医が知っておきたい腸内細菌叢」内藤裕二(羊土社/2021)・・・221ページより
本検査サービスは、特定の疾病や疾患の診断・治療等に用いられるものではありません
ーこの事業の発起人である浅見さんはもとは営業職と聞きました。どのような経緯で「MicroBio Me」をはじめたのでしょうか?
浅見:もともと飲食店などを回り、ビールの営業をしていた僕が新規事業を担当することになったきっかけは、「キリンビジネスカレッジ」という社内研修です。
指名と公募で参加者を募って11カ月の研修を受けるのですが、そのなかに「新しい事業を提案しよう」という研修があったんです。そのテーマが「ヘルスサイエンス」でした。
まず事業発案にあたり、チームでヘルスケアに関する悩みや課題に感じていることはなんだろうと考えたんです。そこで頭に浮かんだのが「健康診断」でした。健康診断を毎年受けているけれど、数値を見て健康状態の良し悪しがわかっても、改善するために何をしたらいいかわからないなぁと思っていたんです。
ーたしかに、具体的なアクションがわかりづらいですよね。
浅見:同じようにキリンは数多くの健康食品を作っていますが、どれが自分にとって最適な栄養素なのかわからず、選べずにいる人もきっと多いはず。なので自分の健診結果をもとに必要な栄養素がわかるサービスがあったら、お客さまに親切ではないかと思ったんですね。そこで思いついたのが「パーソナライズされた検査サービス」でした。
ちょうどタイミングを同じくして、個別化栄養をテーマにしたプロジェクトが発足しており、2019年の4月からこのプロジェクトに加わり検討を開始しました。
ーそこからどのような経緯で腸内細菌にフォーカスした事業になったのでしょうか?
金山:実はこのプロジェクトがはじまる前からキリンでは腸内細菌の研究が長年行われていたんです。
僕は腸の研究を担当する前にプラズマ乳酸菌の研究開発をしていました。乳酸菌は整腸作用や腸内にいい菌を増やしてくれることで有名ですよね。皆さんもヨーグルトに含まれる乳酸菌が腸にいいと聞いたことがあると思います。
そこでキリンでは乳酸菌だけでなく、乳酸菌が作用する腸内細菌の研究にもこれまでよりも力を入れようということになったんです。
川久保:さらに、プラズマ乳酸菌は健康な人の免疫機能の維持に役立つことが報告されています。免疫細胞は腸にたくさんいて、腸内細菌と関わっているんです。そのつながりからも、キリンが腸内細菌の研究をすることには必然性がありました。
金山:ヘルスケアの検査事業はキリンでは初めてのこと。お客さまに信頼していただくためにも、我々がしっかり研究してきた分野がいいだろうということになりました。そこで2020年の春過ぎに、研究の土壌がある腸内細菌に特化した検査にしようという方針が決定。そして腸内細菌を研究してきた僕がチームに入ったんです。
川久保:最後にチームに入ったのが僕で、2022年のことです。別の新規事業の開発を担当していたのですが、プロジェクトが拡大のステージに差し掛かったところで、新しい事業にチャレンジしたいと考えていました。そんな折に声がかかったのが「MicroBio Me」です。
僕ももともとプラズマ乳酸菌を担当していましたから、腸内細菌には驚くべきポテンシャルがあると知っていました。だから腸内細菌に特化した検査サービスはおもしろそうだと思いましたね。
ーサービスの開発段階では、どのような苦労がありましたか?
浅見:先ほど金山も言っていたとおり、ヘルスケアの検査サービスはキリンでは初めてのことです。だからすべてが手探りでしたね。
金山:ですね。苦労の連続でしたが、特に最終的にお客さまに見せるレポートの作成に最も頭を悩ませました。
金山:お客さまにはわかりやすく伝えたいけれど、法規制があるので使えない表現も多いんです。そうでなくても腸内細菌の検査結果ですから、医学用語や専門用語も多く難しくなりがちでした。制約があるなかでどうやったらもっとわかりやすくなるんだろうかと、皆で悩みましたよね。
浅見:「どう伝えるか」はとても難しい課題でしたね。その他にも「何を言うか」も問題だったんです。
レポートを作るにあたり、キリンの社員やクリニックの先生にフィードバックをもらったのですが、「こんなに詳細に菌のことがわかるんです!」と文字がびっしりの緻密なレポートを見せたところで「それでこの数値がなんの役に立つの?」と一蹴されてしまいました。
僕が健康診断の結果に疑問を抱いていたのと同様に、皆が知りたいのは数値ではなく「自分は今どういう状態で、健康のために何をしたらいいのか」だとあらためて気付かされましたね。
そこで僕自身が日本中のあらゆる検査を試し、ユーザーの気持ちを体験することからはじめたんです。
そうした経験も踏まえてできあがったのが、現在のレポートです。一番最初のサマリーページにA〜Eのスコアを記載し、今の腸の状態から改善するためのアドバイスまでわかるページを作りました。
ーA〜Eのスコアがあるとのことですが、スコアの基準を作るのも難しそうですね。
金山:そうなんです。どの状態ならAで、どの状態ならBなのか決める作業もたいへん苦労しましたよね。
浅見:「健康な状態」と言葉で言うのは簡単だけれど、じゃあ腸内細菌がどんな状態なら健康なんだろうっていうね(笑)。
金山:これは科学的には非常に難しい問題なので、「MicroBio Me」独自に「有用菌の多さ」「有害菌の少なさ」「菌の多様性」などの指標を基に、スコアを決定しています。
ー「MicroBio Me」 をリリース後、社内やお客さまからどんな反応がありましたか?
浅見:社内からは「ようやくリリースできたね」という、激励とも厳しいともとれる声をもらっています(笑)。
リリースを見た個人の方からは「どこで受けられるの?」という問い合わせが結構来ていますね。そしてクリニックなどからも「導入を検討しているから資料がほしい」というお声をいただいています。
ー現在はどれくらいの医療機関が取り扱っていますか?
浅見:国内の医療機関100施設以上で取り扱っていただいています。これからも営業時代のスキルを生かして医療機関を訪問し、取り扱ってくださるところを拡大していく予定です。
ー最後に「MicroBio Me 」を通じて、どんな未来を作っていきたいか、今後の展望を教えてください。
浅見:目指すは「キリンが腸内細菌コントロールのリーダーカンパニーになること」です。研究を進めて、腸内細菌をコントロールできるところまでいきたいんです。
金山:現在我々ができるのは、食べ物によっていい菌を増やすというご提案です。けれどその先である「悪い菌を無くす」ということもやっていきたい。ただしそれをするためには、食品ではなく医療の領域に入っていくんです。
川久保:医療といえば、例えば癌の薬の効きやすさを腸内細菌で予測する研究が行われているんですよね。
金山:そうなんです。腸内細菌を変えることで薬の副作用を少なくしたり、効かない薬を効くようにするといった研究が行われています。
川久保:つまり腸内細菌をコントロールできれば、病気の予防はもちろん、病気になってしまった場合に効果的な治療を施すのに役立つ可能性があるんです。それができればより多くの方の健康に貢献することができます。
浅見:腸が今後、健康のキーワードになって行くことは間違いないと思っています。将来性のある分野だからこそ、我々が先駆けて着手していきたいですね。