従業員の「自分ごと」化が第一歩。持続可能な社会の実現に向けたファンケルの挑戦
キリン公式noteより(公開日2023年4月18日)
2019年に資本業務提携を結んだキリンホールディングスとファンケル。連載企画「#ファンケルとキリン」では、“食と医のキリン”と、“美と健康のファンケル”の両社がタッグを組むことで生まれるシナジーと、その可能性について探ります。
今回は、両社のSDGsやCSV(※)における活動の歩みや未来に向けたビジョン、社会課題解決における共通項を見出すべく、キリンホールディングス CSV戦略部の山田幸司がファンケル サステナビリティ推進室 室⻑山本真帆さんを尋ねました。
ファンケルの取り組みや今後の課題、両社が互いに補完し合うことで叶う希望ある未来の形について考えます。
(※)Creating Shared Value(=共通価値の創造)の略。社会的価値と経済的価値の両立を目指す、経営の指針・スタイルのこと。
山本真帆(以下、山本):2020年から本格始動してきたファンケルの「サステナビリティ推進室(当時は「SDGs推進室」)」は設立以来、CO2排出量削減やプラスチック削減など様々な環境対応や地域活動、社内浸透策など、さまざまな活動に取り組んでいるところです。
そのなかで、キリンさんと一緒にできることがもっとあるのではないか考えています。今日はいろいろとお話ができること、楽しみです。よろしくお願いします。
山田幸司(以下、山田):ありがとうございます。ファンケルさんの「サステナビリティ推進室」の取り組みを始め、社内浸透策についてもお聞きできればと思います。ファンケルさんとキリンの取り組みから、さらにシナジーが生まれることを期待しています。
山田:さっそくですが、「サステナビリティ推進室」はいつ設立されたのでしょうか?
山本:2020年3月に「SDGs推進室」を設立し、2022年に「サステナビリティ推進室」へ部署名を変更しました。SDGsは、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すという目標を掲げているので、2030年より先も持続可能にという想いからです。
山田:具体的な取り組みや重点テーマについて教えてください。
山本:ファンケルは、「正義感を持って世の中の“不”を解消しよう」という創業理念を持っています。
不安・不便・不満など、「不」のつく言葉を世の中からなくしたいという想いで、事業としても社会課題解決を軸に進めてきましたし、特に社会貢献活動に関しては力を入れてきました。
ファンケル サステナビリティ方針
山本:ファンケルでは、「未来を希望に」というサステナブル宣言のもとに、「環境」「健やかな暮らし」「地域社会と従業員」の3つを重点テーマとして掲げています。
「環境」は、自然と調和した事業活動のために、エネルギー・CO2排出量削減やプラスチック使用量削減などの課題に取り組んでいます。
「健やかな暮らし」では、商品やサービスを通じて世の中の健やかな暮らしを支え、クオリティ・オブ・ライフ向上のための貢献を目指すもの。2030年までの目標として、日本人が健康のためにサプリメント・健康食品で対処する割合を50%にすることを掲げています。
そして、「地域社会と従業員」では、地域社会への貢献や多様な人々が働きやすい環境作りなどを通して、誰もが輝ける社会づくりを目指しています。キリンさんではいかがですか?
山田:キリングループでは、「酒類メーカーとしての責任」をはじめとして、「健康」「コミュニティ」「環境」をCSVパーパスとして定めています。
キリングループ CSVパーパス
山本:キリンさんのCSVパーパスは、いつも参考にしています。基本の考え方は通じる思いもありますし、いろいろな場面で一緒に取り組んでいけるのではと日頃から考えているんですよ。
山田:ファンケルさんでは、化粧品容器のリサイクルにも積極的に取り組まれているようですが、具体的にどんなことをされていますか?
山本:2021年の7月からは、直営店舗で化粧品の使用済み容器を回収して、植木鉢にリサイクルする「FANCLリサイクルプログラム」に取り組んでいます。
始めた当初は、直営店6店舗からスタートしましたが、今では全国164店舗(2023年3月末)の直営店で展開しています。また、植木鉢は横浜市主催のイベント『ガーデンネックレス横浜』に寄贈して、来場者へのプレゼントに使っていただいてるんですよ。
他にも最近では、小学校で環境の授業にも使っていただきました。2022年末の段階では、52,000本の容器を回収して4,500個の植木鉢にして寄贈したという実績があります。
「FANCLリサイクルプログラム」容器回収ボックス
山田:取り組みを通して、地域とのつながりが持てるというのもいいですね。どんなきっかけで始まったのでしょう?
山本:ファンケルの化粧品は無添加で防腐剤が入っていないため、容器が他社と比べて小さく、捨てる頻度も多かったんです。
「容器を回収した方が良いのでは?」というお客さまからの声は、私が入社した頃からずっと届いていて。やっとそれに応えるという形でスタートしました。
山田:お客さまからの声が大きかったんですね。実際にスタートして、お客さまからの反応はいかがですか?
山本:「自分たちの要望を叶えてくれてありがとう」という声がまず一つ。あとは、環境意識が高まるなかで、エシカル消費やプラスチック削減という課題を意識する若いお客さまが増えてきたこともあり、「ファンケルではそういった取り組みを行なっていて、素晴らしいですね」といった声も多く届いています。
山田:自分たちの取り組みに共感していただけるお客さまが増えてきたことは、とてもうれしいですよね。
山本:そうですね。また容器リサイクルには、分裂・洗浄・粉砕という工程がありますが、ファンケルでは障がいのある従業員が業務の一つとしてこの工程を担っています。
ファンケルでは、障がい者の自立支援を目的に、特例子会社「ファンケルスマイル」を1999年に設立しました。現在では、障がいのある従業員が100人以上活躍しています。
なので、会社としての障がい者雇用率もサステナビリティの目標に定めて取り組んでいるんですよ。
現状、障がい者雇用率は2.3%ですが、ファンケルでは4.29%(2022年3月末)となっています。創業当時から重度・重複の心身障がいを持つ方の通所施設との深い交流があったこともあり、障がいのある従業員が一緒に働いていることがあたりまえになっています。
特例子会社「ファンケルスマイル」
山田:障がい者雇用についてお話いただいたように、ファンケルさんでは多様性を認め、受け入れる、ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みが進んでいますね。
山本:ファンケルグループでは、「みんな違ってあたりまえ」というダイバーシティ推進スローガンを掲げていて、さまざまな価値観や考え方を持つ多様な人材が個性や能力を発揮し、新しい価値を生み出し続けることを目指しています。
山田:持続可能な社会を実現するためには、社外への発信だけでなく、従業員一人ひとりの理解度や意識を高めることも重要な課題ですよね。ファンケルさんではどんな浸透策を実施していますか?
山本:実は、「SDGs推進室(現在の「サステナビリティ推進室」)」が立ち上がってから、さまざまな浸透策を打ってきました。
組織が立ち上がった時がちょうどコロナ禍に入ったタイミングだったので、対面でいろいろなことを行うのが難しかったんですよ。
そんななかで、取り組みに関する自主制作動画の配信をしたり、イントラを活用して月に2回SDGsに関するトピックスの配信をしたりと、社内向けの情報発信を積極的に行いました。
また、コロナ禍が少し落ち着いたタイミングでNPO団体などと連携して、従業員が社会活動に参加する機会も徐々に作っていきました。具体的には、植樹活動やビーチクリーン、子ども食堂との連携、障がい者施設でのボランティアなどです。
そういった形で、従業員が世の中の課題を知るきっかけ作りを、地道に、カジュアルな仕組みで実施しています。
ビーチクリーンの様子
山田:とても充実していますね。確かに直接話を聞くことで、興味を持って調べるようになりますし、自分ごととして捉えられるようになるのではないかと思います。
山本:なんとなくインターネットで調べるだけというよりも、直接リアルな声を聞くことで、行動にも結びつくはず。一つでも参加する機会を作るようにしています。
山田:従業員の行動や意識に変化は感じますか?
山本:毎年定点的に従業員の理解度や浸透度調査をしていますが、劇的に上がったと思います。初めは、SDGsやサステナビリティについての理解度が5割程だったものが約2年間で、9割以上にまで上がりました。
また、各部門が主体的に考えて提案が挙がるようになってきて、従業員の活動参加数が約2倍にも増えました。
山田:すごい浸透力ですね。従業員からはどんな提案が挙がってくるんですか?
山本:リサイクル活動を行う場所を増やすための提案や、植木鉢の寄贈先や方法の提案などが挙がってくるようになりました。
あとは、情報発信の提案が多いですね。ファンケルでは、ECサイトやお買い物アプリ、ソーシャルメディアやカタログなど、お客さまへ向けた情報発信の場をいくつか持っています。
そのなかで、サステナビリティのコーナーを新たに設けたり、サステナビリティがブランド価値向上につながるという従業員の意識が高まったことで、「このアイテムの購入でNPO団体への寄付につながります」といったようなSNSキャンペーンを展開したり。
私たち「サステナビリティ推進室」が情報を社内へ発信し、それをみんなが武器にして外に発信するという流れができてきているところです。
山田:そういった社内からの提案は直接山本さんへ届くのですか?
山本:そうですね。日常の会話の中でもそういった話題が挙がるようになっています。
ファンケルの特徴的な取り組みとして、ライブ配信型の全社朝礼というものがあります。社長や役員、プロジェクトリーダーなどが、自部門の取組みの実績や活動にかける想いなどを発信する場があるんです。
そこで私も情報を発信しているので、社内を歩いていると声をかけてくれることも多いですね。キリンさんではどんな社内浸透策を行なっていますか?
山田:キリンでもWEB版の社内報「KIRIN Now」で、CSV事例の紹介をはじめとした情報発信を行い、取り組みの内容や目的などの理解が深められる場を作っています。
社員それぞれが自分の言葉で語れるようになってきてはいるとは思いますが、さらに従業員一人ひとりの意識、そして企業価値を高めることで社会に価値を創造していくことにもつながるなと山本さんのお話を聞いて感じました。
今後も重要な取り組みとして強化していきたいと思います。
山本:SDGsやサステナビリティに対する企業課題は、1社ではどうにもならないと感じています。同じ課題を持つ他の会社、場合によっては国や自治体、NPO団体とも手を結び、世の中に大きなムーブメントを作っていかないと、本当の意味での解決にはつながらないなと。
あとは、単なるボランティアではなく、お互いが持続可能でないと活動は続いていかないし、そういうものをどう見出していくかが課題ですね。
山田:そうですね。我々で共通する課題はありそうです。
山本:具体的にキリンさんと共通している課題としては、プラスチック削減の問題だと考えています。ファンケルでは、化粧品やサプリメントの包装容器にはプラスチックを大量に使用しているので、企業の責任として早急に取り組むべき問題だと捉えています。
そういったなかで、脱プラスチックやリサイクル活動を実施していますが、プラスチック問題は世の中的に技術面でも追いついていないところがあるので、キリンさんとも連携してプラスチックの資源循環に向き合っていきたいという気持ちがあります。
山田:ファンケルとキリン、両社で掲げている「プラスチックが循環し続ける社会」の実現に向けて、今後どのような取り組みをしていくべきでしょうか?
山本:現状は化粧品容器に使用しているペット素材を「マテリアルリサイクル」で植木鉢にリサイクルしていますが、将来的には「ケミカルリサイクル」で資源を循環し、化粧品容器を再び化粧品容器として活用することを目指しています。
「ケミカルリサイクル」の仕組み
山本:キリンさんの「ケミカルリサイクル」によるペットボトルの再資源化とその技術の実用化を目指したプロジェクトは、私たちの持っている課題とも一致していますよね。
まだまだ難しい部分が多い「ケミカルリサイクル」の技術ですが、近い存在であるキリンさんが取り組んでいるというのはとても心強いです。連携をより強め、「プラスチックが循環し続ける社会」の実現に向けて取り組んでいきたいと思います。
山田:我々も、「ファンケルリサイクルプログラム」との協働をより強化し続けることが重要だと考えているので、「ケミカルリサイクル」の実用化を実現させたいと思っています。
山本:また、これまでもキリンとファンケルでは、“腸活”をコンセプトにしたコラボレーション商品『午後の紅茶 アップルティープラス』の発売や、共同研究を経てリニューアル発売したファンケルの『ビューティーブーケ』など、いくつも協働をしてきました。
▼キリンとファンケルがコラボレーションした『午後の紅茶 アップルティープラス』の発売背景
▼共同研究を経てリニューアル発売したファンケルの『ビューティーブーケ』の背景
そんななかで今回、新たに協働した取り組みがあります。2022年12月に『キリン 一番搾り』の製造工程で発生する副産物、ビールの仕込粕から抽出した物質を用いて、ファンケルの化粧品包材が開発されました。
この取り組みを見ても、容器のリサイクルやプラスチック削減に加えてまだまだ一緒にできることがたくさんあるはずだと感じています。今後の取り組みにも期待しています。
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次回の「ファンケルとキリン」では、ファンケルとキリンが共同開発した国内初となるビール製造時の副産物からつくられた化粧品包材開発の裏側に迫ります。
どうぞ、お楽しみに。
文:高野瞳
写真:飯本貴子