“お客様視点”がカギ。ファンケルの「正直品質。」を叶える研究力
キリン公式noteより(公開日2022年1月28日)
2019年に資本業務提携を結んだ“食と医のキリン”と“美と健康のファンケル”。この「#ファンケルとキリン 」は、互いの共通項を紐解き、共に補完し合うことで生まれる可能性を探る連載企画です。
両社の協業からお客様のもとにお届けする商品として実を結んだひとつが、2021年10月にリニューアル発売したファンケルの「ビューティブーケ」。キリンが保有する素材とファンケルの知見を掛け合わせた共同研究の結晶です。
そこで今回は「ビューティブーケ」の共同研究を担当した、キリンホールディングス R&D本部キリン中央研究所の杉原圭彦を聞き手に、ファンケルの研究拠点である総合研究所の所長を務める、炭田康史さんにお話をお聞きしました。
ファンケルが何よりも大事にする「お客様目線」を研究に生かすための秘訣から両社のタッグによって生まれるシナジーまで2人のお話から紐解きます。
杉原:ファンケルは企業スタンスとして「正直品質。」という言葉を掲げていますよね。
これはキリンの品質方針である「品質本位」にも、「お客様本位」にも通ずる言葉だな、と思ってはいましたが、実際にご一緒してみると想像以上の徹底ぶりでした。
優れた技術によって高い品質を築き、さらに発展させることが研究員の役割です。だからこそ、実直な研究姿勢が求められますが、ファンケルの場合、その正直さがまっすぐお客様のほうを向いているんですよね。
炭田:これはファンケルが誇るべき姿勢というか、自慢したいところですね(笑)。商品の基礎を作り出す研究員として、真摯であるのはあたりまえ。ファンケルが大事にしているのは、実直な研究姿勢と同時にお客様への正直さです。
商品に込めた技術がどんなに優れていても、伝わらなければ意味がない。私たちが掲げる「正直品質。」とは、商品の品質がどのように支えられているのか、技術の部分まで正直にお伝えし、お客様の理解と共感を得ることです。
杉原:なるほど。商品の効果を実感いただくことが第一ですが、技術まで理解いただけたなら、その実感も安心感も深まります。
炭田:その通りです。実感の影に隠れた技術までお伝えする、ということです。以前は当社の旗艦店である「ファンケル銀座スクエア」に研究員が常駐してお客様との接点を持っていました。
また、今はコロナがあって開催していませんが、「ファンケル銀座スクエア」ではお客様向けにセミナーを定期的に開催し、直接お話する機会を作っていました。
コロナ禍をきっかけに始めたライブショッピングにも、お客様をお招きしたWebでのイベントにも研究員が登場し、自分たちが築いた技術についてご説明させていただいています。
杉原:常にお客様に目を向ける実直さは、お客様とのリアルな接点から生み出されていたんですね。キリンも私自身も見習わなければ、と思う一方、お客様に技術を理解いただくことって、実はすごく難しいことだと思います。
キリンの品質方針は「品質本位」であり「お客様本位」です。私としては難解な研究テーマにも果敢に挑んでこそ、この理念を体現できると考えています。難解な研究から技術を編み出し、権威ある学術誌にも認められるほどのエビデンスを示す。
この姿勢がいずれお客様に還元されるはずだと信じていますが、難解かつ複雑な研究についてお客様に説明するとなると、どうにも頭を抱えてしまいます。わかりやすくお伝えできるだろうか、と(苦笑)。
炭田:うちの研究員も一緒です、最初は皆が「緊張します、無理です!」なんて尻込みしますから(笑)。それがいざお客様の前に立つと、今度は「またやりたい!」と手を挙げてくれるようになります。
その勇気とやる気を与えてくださるのは、ほかでもなくお客様。説明の場がオンラインだったとしても、皆さんが「なるほど!」「すごい!」「その技術を実感しています!」というように、お褒めの言葉をくださるんです。
杉原:それはめちゃくちゃモチベーションが上がりますね。うらやましくなります(笑)。
炭田:でしょう?なかには感動のあまり、涙を浮かべる研究員もいるくらいですから(笑)。すると研究へのモチベーションが上がるばかりか、お客様に共感いただける研究とは何なのか、といったさらに幅広い視点を持つことができ、研究テーマの設定にまで変化が生じます。
それにお客様の目線に立つことは、ファンケルのDNAでもあります。創業者の池森は、一にも二にもお客様にわかりやすくご説明、ご案内するということを考えています。社内の報告会であっても、少し難しい説明をしただけで、すぐに「わからない。もっとわかりやすく」と一撃が飛んできます(笑)。
同時にファンケルでは研究員として採用された場合にも、まずは店頭接客を経験します。お客様との接点を持つことが、新入社員研修の一環として組み込まれているんです。
杉原:お客様と接点を持ち、お客様の目線に立つ。私も意識しているつもりでしたが、まだまだ不十分だと思い知らされました。
私のやっていることといえば、世間のニーズを新聞やネットから探るくらいです(苦笑)。マーケティング担当との結びつきももっと強められるはずなので、こちらからもアプローチしていきたいですね。
炭田所長のお話をお伺いして、研究員もただ待っているだけではなく、もっと積極的にお客様のお声を聞きに行かなければいけないんだ、と身が引き締まりました。
炭田:そうですね。マーケティング部門と密な連携を取れることが理想です。
とはいえ、キリンもファンケルも企業組織である以上、ある程度の縦割りは仕方ない。縦割りであるからこそ、縦に並んだ部署が互いに手を取り、それぞれにお客様と関わりを持つという考え方なんです。マーケティングの視点からも研究員の視点からもお客様と関わり、そして企業として進んでいこう、と。
研究の拠点であるファンケル総合研究所
杉原:そうした企業姿勢が、研究の現場にも生きていますよね。私は2021年10月にリニューアル発売された「ビューティブーケ」の共同研究を担当しましたが、ファンケルの研究員さんは「成分として含有しないことはもちろん、製造過程にもアルコールは使用したくない」という主張をされていました。
ファンケルは、肌に負担を掛けず、肌本来の美しさを引き出すことを第一に考えた、無添加化粧品のブランド。アルコールフリーに仕上げることは理解できましたが、「製造過程にも」というのは正直びっくりしました。
リニューアル後の「ビューティブーケ」には、キリンが保有する白麹由来の「14-DHE」が配合されています。この成分はファンケルが長く研究を続けてきた美肌タンパク「アルギナーゼ1」の量を増加させますが、「14-DHE」は脂溶性の成分。通常、脂溶性成分を扱うときは、アルコールを一緒に使うことが“お作法”なんです。
炭田:それがうちの研究員は、お作法を破ってでもアルコールは使いたくない、と(笑)。
杉原:はい、最初は驚きましたよ(笑)。同時にこれがファンケルの「正直品質。」なのか、と圧倒されもしました。しかも、徹底したアルコール不使用によって開発のハードルが上がったはずが、ファンケルの研究員さんは、そのハードルをいとも簡単に乗り越えてしまって…!
炭田:杉原さんと一緒に「ビューティブーケ」を担当したのは、うちの榎本さんでしたね。私も共同研究セミナーを見させてもらいましたが、二人の息が本当にぴったりだったのが記憶に残っています(笑)。
杉原:そうなんです、すごく気が合ったんですよ(笑)。「正直品質。」や「品質本位」という両社の似たようなスタンスのもとで研究開発をしているからか、そこに属する研究員もお互いどこか似ている部分があるんでしょうね。
まじめで何事も深く究めるという姿勢にズレがなく、共同研究もスムーズに進んだと自負しています。
それに気さくな研究員が多いのも、両社の共通点かもしれません。コロナ禍ということもあり、打ち合わせの多くがオンラインでした。それでも行き詰まることなく研究を進められたのは、何でも相談し合える気さくさのおかげだったのかな、と。
炭田:真面目さや気さくさといった共通点の一方、両社の違いが研究分野ですよね。お客様にはなかなか理解が難しいような、複雑なテーマにも果敢に挑む姿勢こそ、キリンの強みだと感じています。ゆえに基礎研究の幅が驚くほどに広い。
一方のファンケルはお客様のお声に基づいた、より身近な研究テーマが多いのが特徴です。この違いがあるからこそ、両社の協業に意味があるのだと思います。
杉原:この「ビューティブーケ」は両社の強みを生かし合えた、象徴的な商品ですよね。炭田所長が評価くださったように、基礎研究の幅の広さはキリンの大きな強みです。その反面、自分たちの研究成果が形にならないことも少なくありません。
「ビューティブーケ」に配合された「14-DHE」も、当初は食品への応用を考えていたんです。しかしながら、お客様のお役に立てる形では商品化できず、くすぶっていた経緯があります。私自身、長く研究に携わっていた素材だったため、すごく落ち込んで(苦笑)。
それがファンケルとの協業を始めた途端、一気に商品化への道が開き、しかも既存の「ビューティブーケ」とキリンの素材を掛け合わせることで、より一層の効果を引き出せた。ファンケルを見習い、自分から売り込みに行きたいくらいの自信作になりました(笑)。
炭田:資本業務提携なんて聞くと、上層部のビジネス的なつながりだけに思われるかもしれない。でも、それは違います。杉原さんと榎本さんのように、現場の研究員たちがしっかり手を携えていますよね。
「ビューティブーケ」を担当した二人に限らず、みんながみんな、上層部の知らないうちに連絡先を交換して、メールのやり取りをして、交流の盛んさに驚きましたよ(笑)。
でも、この交流が重要です。新たな研究の種は、会話のなかに潜んでいるんです。
杉原:本当におっしゃる通りです。ひとり研究に打ち込んでいると視野が狭まり、袋小路に迷い込んでしまいます。それが誰かと話をすると、パッと道が開けることが多々あります。
特にファンケルの研究員は、キリンの研究員とは違った視点を持っていますからね。自分と違う視点や自分とは違う発想を持った人の話を聞くことは、自らの研究を磨くことにも欠かせません。共同研究を通じ、私自身も改めて実感したところです。
炭田:ファンケルからしても、キリンの基礎研究は宝の山です。「ビューティブーケ」に白麹菌由来の成分が応用されているように、発酵バイオはキリンの強み。
両社が持つ知見と素材、それに互いを刺激し合う研究員の会話があれば、研究の種は無限に生まれるはずです。その種を花開かせ、お客様に「こんな商品が欲しかったんだ!」と評価いただける成果を残すことが、協業の意味ではないでしょうか。
そのためにもキリンとファンケルは、もっと交流を深めなきゃいけない。コロナが収束した暁には、両社の研究員が大いに語り合う機会を設けたいですね。もちろん、キリンビールを飲みながら(笑)。
杉原:まさに!お酒の力によって心がほぐれ、会話が弾むことは、キリンの人間が誰よりも知るところです(笑)。
とりとめのない会話から互いの理解が深まり、そこから両社のシナジーが生まれていく。ファンケルとキリンの研究員がそろって乾杯できる日を、心待ちにしています。
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黙々と研究に打ち込む姿がイメージされがちな研究員ですが、ファンケルとキリンの共同研究の種を生み出しているのは、意外にも会話。この会話から生まれた種を丁寧に育み、両社はさらなるシナジー創出を続けます。
そしてKIRIN公式noteでは、今後もファンケルとキリンが生み出す商品、商品の背景にある両社の想いにフォーカスしながら、活動を紹介していきます。どうぞ、お楽しみに!
文:大谷享子
写真:田野英知