身近な人の「不」を解消するために。ファンケルとキリンが共に描く未来
キリン公式noteより(公開日2021年8月20日)
2019年、キリンホールディングスとファンケルは資本業務提携を結びました。“食と医のキリン”と、“美と健康のファンケル”。両社がタッグを組むことで、どのようなシナジーが創出されるのでしょうか。両社の共通項や企業文化を紐解き、互いに補完しあうこれからの可能性を探ります。
今回は、キリンビバレッジ マーケティング部のブランド担当であり、自身もファンケルのファンだという二宮倫子を聞き手に、ファンケル 管理本部企業文化コミュニケーション室室長の馬見塚陽子さんにお話を聞きました。
創業以来「安心・安全」を正直に守り続け、愚直にお客様の「不を解消することに向き合ってきたファンケル。その約40年の歴史の中で培われてきたDNAや大切にしてきた想いをうかがいます。
二宮:今日はどうぞよろしくお願いいたします。さっそくですが、ファンケルの歴史は、約40年前、創業者様が奥様の肌悩みを解決するために化粧液(化粧水)を作ったことからはじまったと聞きました。
馬見塚:はい、そうです。当時は、化粧品のせいで肌あれを起こすことが社会問題になっている頃でした。創業者である池森賢二の奥様も、長年肌トラブルに悩まれており、それを見ていた池森が「なんで美しくなるために使っている化粧品でトラブルが発生するんだろう」と思ったんですよね。
原因は、当時の化粧品に使われていた保存料などの添加物にありました。しかも、当時は、そんな化粧品をたくさん塗り重ねるのがよいという風潮もあったんです。
池森は、保存料などの添加物を入れない化粧品があればいいのにと考えたのですが、知り合いの化粧品技術者に相談しても、「栄養素のかたまりである化粧品は腐りやすく防腐剤は必要悪なんだ」と取り合ってもらえず…。
でもその必要悪のせいで、自分の妻をはじめとする多くの女性が悩んでいる。それなら、添加物を抜いた化粧品を自分で作ろうと研究をはじめたことが創業のきっかけです。
二宮:できないなら仕方ない、で諦めず「ないなら作ってしまおう」と。
発売当初の化粧水。注射液などを入れるバイアル瓶に詰めて専用オープナーで開封。
馬見塚:はい。痛みやすいのならその前に使い切ってもらおうと、新鮮な無添加化粧水をバイアル瓶(アンプル容器の一種)に詰めて販売したんです。
でも当時は、華美な化粧品が主流だったので、夢を売る化粧品なのにバイアル瓶なんて味気ないものでは売れないと業界内でも批判が多かったようです。
容器や香りの良さよりも肌悩みを改善したいと悩んでいる方はたくさんいるはずだと、なんとか悩んでいる女性たちに届けられないかと、チラシを手作りし団地にポスティングをしたのが最初だったと聞いています。
池森氏自らが原稿を執筆し、作ったというチラシのラフ案
二宮:すごい!チラシの文章からも池森さんの誠実さと優しさが伝わってきます。奥様のためとはいえ、なかなかそこまでできないですよね。
ビジネスのために作った商品ではなく、大切な奥様の「不」を解消するためにできた製品だからこそ信頼できるなと思います。
馬見塚:身近な人の「不」を解消するためにもっと何かできるはず。この精神がまさにファンケルの原点であり、現在でもDNAとして多くの商品開発やサービスに受け継がれています。
二宮:初期の5mlのバイアル瓶から今では30mlと、40年間でボトルも進化していますね。
馬見塚:そうなんです。ファンケルの化粧液(化粧水)は、濃厚で濃密なので数滴でもしっかり肌が潤うんですけど、そうは言っても5mlではすぐに使い切ってしまいますよね。さらに、ガラス製で割れやすかったり、手を切らないように専用のオープナーで開ける必要があったり…。
これらもお客様の「不」なんですよね。もっとなにかできるはずだと、5mlが10mlになり、ガラスがプラ容器に変わり、開封しやすいキャップになり、そして現在の30mlへと変化をしていきました。
実は無添加で栄養成分を保ったままスケールアップするのってすごく難しいことなんです。でも、きれいになるための化粧品に、きれいを妨げるものがあってはいけない。添加物を入れずに、量をスケールアップできたのは、研究員たちによる無添加研究の賜物です。
二宮:お話を聞いて、キリンの最初の清涼飲料である「キリンレモン」の歴史と似ているなと思いました。90年前は着色された炭酸飲料が主流だった中で「安心して飲める無色透明の炭酸飲料」として生まれたのがキリンレモンなんです。
液色の透明を際立たせるために瓶も透明にしようとしたのですが、劣化しやすく日持ちがしないため、1本1本紙を巻いて出荷していました。そこから少しずつ改良を重ねて、現在に至ります。
馬見塚:そうですね。今のキリンレモンのお話もそうですが、キリンさんとは企業風土がよく似ているなと日々感じることが多いです。
二宮:ファンケルさんは商品・広告・店頭での接客すべてにおいて、会社のDNAとおっしゃる「不の解消」「もっと何かできるはず」の思想が一貫されていますよね。社員の方からも、打ち合わせしていると「不の解消」という言葉が何度も出てきます。
馬見塚:実はそう言っていただけることが多く、なぜだろうと少し前に考えていたのですが、もしかしたら「常にお客様との距離が近いこと」にあるのかなと。
40年間ずっと、商品開発から販売までの全部門がお客様との関係を築いているので、お客様との絆が深く顔がよく見えるんです。研究員から販売スタッフそれぞれにとって、誰に向かって作っているのか、誰の「不」を解消しようとしているのかがリアルなんですよね。だからこそ、常に「不の解消」「もっと何かできるはず」と感じられるのではないかなと。
二宮:お客様との近さ、ですか。
馬見塚:裏を返すと、お客様と距離が近い、顔が見えているということは、私達もお客様から常に見られているということです。
ファンケルのスタンスメッセージに「正直品質。」とありますが、距離が近いから、正直にならざるを得ないんですよね。以前、ファンケルらしさが間違った方向に行きかけたときは、お客様から多くのお叱りをいただきました。でもそれも、距離が近いからこそ言っていただけるんですよね。
会社や商品へ不満が出たときに、黙って他製品に乗り換えるのではなく、しっかりと向き合ってくださるのがファンケルのお客様なんです。その際は、深い反省をこめて、新聞の全15段広告を使って大きな文字で「最近のファンケルは少し思い上がっていないか!」と書いた謝罪広告を出しました。
二宮:インパクトがありますね!でも他製品に乗り換えることができないくらい、お客様にとって唯一無二のものを作られているんだなと感じました。お客様と一緒に「ファンケル」というブランドを作られているんですね。
馬見塚:まさにその通りですね。昨年40周年記念として「絆エピソード」と題した、お客様とファンケルとの思い出のエピソードを募集したところ、2,200件以上もの温かいエピソードが届いたんです。従業員以上にファンケルを愛してくださっているお客様の前では、正直にならざるを得ませんし、より邁進しなければと背中を押していただきました。
二宮:今や化粧品だけでなく、サプリメントや食品もファンケルさんの主力商品ですよね。
馬見塚:今でこそ多くの方にご愛用いただいていますが、実はサプリメントも当初は社内でものすごく反対されていたんです。
なぜなら、サプリメントと言う言葉自体もファンケルが発売に合わせて日本で初めて使った言葉で、当時サプリメントは「健康補助食品」と呼ばれていて、桐の箱に入った高額で信頼性に欠けるものが多かったから。
「せっかくファンケルの化粧品が世の中に浸透しはじめ、信頼も少しずつ積み重ねてきたこのタイミングで、なんでそんなに危ない橋を渡るのか」と、役員全員が猛反対したと聞いています。
そのときに、池森は「成功する・しないではなくて、今サプリメントを広めないと将来日本人の栄養が補えなくなる。いつかみんなが、サプリメントがあって良かったねという日が必ず来るからやろう!」と言い、なかば強引に話を通したそうです。
二宮:そんなことがあったんですね。日常的にサプリメントを摂ることがまだ一般的ではない中、ファンケルさんのサプリメントはどのようにして世の中に浸透していったのでしょうか。
馬見塚:まずは価格の見直しです。サプリメントというのは日々の栄養を補助するためのものなのに高額では続けることができません。もっと何かできるはずだと、取り入れたのが現在も使用しているアルミパッケージでした。
あとは化粧品のときと同じく、志を伝える広告ですね。なぜファンケルがサプリを作ったのか、なぜサプリが生活に必要なのかを愚直に丁寧に説明しました。
二宮:広告からも、お客様に伝える気概が伝わってきます。それに、広告だけど一方的じゃないといいますか、広告を使ってお客様とコミュニケーションを取りたい、という思いの強さを感じます。
馬見塚:おしゃれさはまったくないですけどね(笑)。池森からは「お客様に伝えたつもりで、伝わっていないんだったらそれは伝えたことにはならないよ」とよく言われていました。
英語はかっこよく見えるかもしれないけど、読めないストレスがあり、それもひとつの「不」だと。一時期、広告物への英文字禁止令が出たこともありましたよ。格好だけの横文字、全部禁止。
二宮:すごいですね。「英語にしておけばおしゃれに見えるだろう」というのは私もやってしまいがちです(笑)。広告といえば、カロリミットのCMが素敵でした。「いっぱい食べる君が好き」のフレーズは当時話題になりましたし、「ダイエットをハッピーに」のメッセージも斬新でしたよね。
馬見塚:ダイエットで食べたいものが食べられないって、それも「不」ですよね。カロリミットがあれば、ダイエット=我慢ではなく、優しく寄り添うことができる。ここから「ダイエットをハッピーに!」のメッセージが生まれました。
馬見塚:ファンケルの商品開発には、本当の美しさは体の中からであり、内外美容が大事であるという思想がベースにあります。サプリメントのお薬のような形状に抵抗がある方も多くいらっしゃるので、だったら日常の食生活を通して、体の中から健やかになってもらおうと考え誕生したのが「発芽米」や「青汁」などの食品分野です。
青汁が健康に良いからと、開発当時は本社で従業員自らケールを栽培していたんですよ 。試作品を作っては従業員に飲んでもらっていたんですが、それがとにかく苦くてまずくて(笑)。どうにかして美味しくできないか研究を重ねてできたのが、今の青汁なんです。
二宮:本社で栽培していたのは驚きですね(笑)。化粧品から食品まで、常に新しいことにチャレンジし続けることは「不の解消」や「もっと何かできるはず」の信念から生まれるのでしょうか。
馬見塚:創業者の池森は「俺は失敗の達人だ」とよく言っているほど、たくさんのチャレンジをしているんですよね。常に世の中の「不」にアンテナを張り、正義感をもって「不の解消」にトライをして「あ、これはもしかしたらちょっと違うアプローチの方が良いんだろうな」と気付いたら、いち早く撤退する。このように常にトライアンドエラーを繰り返しながら、ベンチャー精神で邁進しているというのも、ファンケルのDNAのひとつだと思います。
二宮:ファンケルさんの「まずは自分たちの手でやってみる」といった姿勢や、スピード感には学ぶ点が多いです。これからの時代、すごく重要な精神ですよね。
馬見塚:キリンさんと企業文化を深めていくにつれて、似たところが多いなと感じています。言い方が適切かわからないですけど、正直で、正義感が強いところも、ちょっと人が良すぎるところも。
二宮:わかります!
馬見塚:また、文化や人、「不の解消」に取り組む姿勢、CSV経営の考え方もやっぱり似ているんですよね。でも一方で、事業的には領域も含めて競合しない。だからこそ、研究領域でも商品領域でも、「不」を解消するための新しいソリューションができることに、とても期待しています。
二宮:そうですね。ほかに馬見塚さんが注目していることなどはありますか?
馬見塚:個人的にはブランド力の相乗効果に着目しています。キリンさんの長い歴史のなかで培ってきたすばらしいブランド力と、ファンケルがお客様と築いてきた濃縮されたブランド力。
目に見えにくい資産ですけど、2社のブランド力を掛け合わせることで、より多くの人たちに商品やサービスをお届けできるというのは楽しみでもありますし、これからさらに双方向にコミュニケーションを取り、成し得ていきたいなと思っています。
二宮:そうですね。キリンは今ヘルスサイエンス領域に重点的に取り組んでいます。長年の研究から発酵・バイオテクノロジーには特に強みがありますが、実は商品化には結びついていないものも多く、共同研究をするなかでファンケルさんから価値を「再発見」してもらえた素材もあると聞きます。
持っている技術を広くお届けしていくためにも、ファンケルさんの知見やお客様との信頼関係はシナジーを生む大事なポイントだなと思います。今後、キリンが健康領域に舵を切るための最良のパートナーだなと。
個人的には、働く女性のサポートができたら良いなと思っています。私達の既存ビジネスは、マスで戦うことが前提で、ある程度の間口の広さが求められることが多いんです。そこでファンケルさんと手を組むことで、特定のお客様のより深いニーズにも寄り添えるのではないかと思っています。
今まで取り組めていなかった領域に、キリンとしても何かやっていけるんじゃないかなと。これからがとても楽しみです!